実である、銭をほしがるのは貧乏のせいだが、物をむさぼるのは心の卑しさがのぞけないからである。
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・芽ぶかうとする柿の老木のいかめしく
・芽ぐむ梨の、やつとこやしをあたへられた
・おばあさんは草とるだけの地べたをはうて
・蕗の葉のひろがるやかたすみの春は
 花が咲いたといふ腹が空つてゐる
・機械がうなる雲のない空(アスフアルトプラント)
 亀がどんぶりと春の水
・月へならんで尿するあたたか
・花見のうたもきこえなくなり蛙のうた
・春の夜を夜もすがら音させて虫
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よい月だつた(陰暦三月十七日)、寝るには惜しい月だつたが、寝床で読書してゐると、樹明酔来、私を街へ引張り出して、飲ましてくれたが、どうしても酔へなかつた。
△私にはもう春もない、花もない、大きい強い胃袋[#「大きい強い胃袋」に傍点]があるだけだ。
ルンペンの自由と不自由とをおもひだした。
△酒は女に酌してもらふより、山を相手に飲め。

 四月十二日[#「四月十二日」に二重傍線]

うら/\と春景色である。
ぢつとしてゐられなくなつたから、こゝで一杯、そこで一杯と借りて飲んだ、そして米を
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