ゞけても食べきれないほど生えてゐる。
笹鳴、夕霧。……
よく寝られた、よすぎる食慾とよい睡眠。

 三月廿一日[#「三月廿一日」に二重傍線] 彼岸の中日。

早く起きて星空を仰いだ。
入庵してから半周年(去年の秋の彼岸の中日に入庵したから)。
晴、朝月のある風景。
草餅が食べたいな。
澄太さんからペーパー頂戴。
樹明来、飲み歩いた、いけなかつた、おなじワヤでもタチのよくないワヤだつた、懺愧の冷汗。
白魚の吸物だけはおいしかつた、蓬餅も。
いつになつたら、ほんとうに酒が味はへるのだらう!
酔うて、そして淋しく戻つて寝た。

 三月廿二日[#「三月廿二日」に二重傍線]

曇、冷たい雨となつた。
樹明君が昨日の事を心配してやつてきた。
すべての従来の悪念悪行を捨てさるべし。
終日終夜、寝てゐた、寝る外ないから。
嵐の前、死の前――そんな気持だつた。
サケとスシとを与へられた、ありがたや。

 三月廿三日[#「三月廿三日」に二重傍線]

身心すこし軽くなる。
味噌汁をこしらへて、そればかり吸ふ、何といふうまさ。
昨日も今日も一句なし。
夜、樹明来、福神漬でお茶を飲んで、もうワヤはやるまいと誓約
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