だと考へるやうになつた、そして、酒さへあれば[#「酒さへあれば」に傍点]、といふ私が、米さへあれば[#「米さへあれば」に傍点]、の私となつてゐる。……
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・さいてはちつてはきんぽうげのちかみち
・たれかきたよな雨だれのあかるくて
・もう暮れる火のよう燃える
・竹の子のたくましさの竹になりつつ
・によきによきならんで筍筍
・親子で掘る筍がある風景です
樹明君に
・なんとよいお日和の筍をもらつた
[#ここで字下げ終わり]
五月三日[#「五月三日」に二重傍線]
曇、風が出て寒かつた。
草取、入浴、散歩。……
樹明君が帰宅の途中を寄つてくれる、忠兵衛もどきで酒を捻出して飲む、精進料理のよい酒だつた。
句もなく苦もなし、楽もなく何物もなし、めでたし/\。
五月四日[#「五月四日」に二重傍線]
晴、なか/\つめたい。
待つてゐるものは来ない。
山の色がうつくしうなつた、苗代づくりがはじまつた。
敬君へ手紙を書いた、悪口を書いたけれど、私の友情はくんでもらへるだらう、敬君、しつかりしてくれたまへ、たのむ。
まじめな身心で畑仕事、蚯蚓の多いのには閉口した。
夜は樹明君を宿直室に訪ねる、よく話しよく飲みよく食べた、ずゐぶん酔ふたが、習慣と心構へとがはたらいて、おとなしく戻つて寝た(残つた酒を持つて!)。
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・山は若葉の、そのなかの広告文字
山肌いろづき松蝉うたふ
・なんにもなくなつて水の音
・石にとんぼはかげをすえ
[#ここで字下げ終わり]
五月五日[#「五月五日」に二重傍線]
曇、端午、男の祝日、幸にして酒がある、朝から飲む、今日一日は好日であれ。
終日閑居、昼寝したり、読書したり、蕗を摘んだり、草をとつたり、空想したり、追憶したりして。
若葉の月はよかつた。
今日は一句も出来なかつた。
五月六日[#「五月六日」に二重傍線] 立夏。
早起すぎた、明けるのが待遠かつた。
晴、ネルセルシーズンだ。
入雲洞君の手紙はありがたかつた、黎々火君のはがきはうれしかつた、しげ子さんのたよりはかなしかつた。
暮春と貧乏との関係如何!
酒を借り、魚を借りて来て、樹明君を招待した、よい酒宴であり、よい月見であつた。
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食べたものがそのまゝで出る春ふかし([#ここから割り注]何ときたない、そして何とまじめ
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