。
筍はうまかつた、蕗とはちがつたうまさがある、だが、私は歯がいけなくなつて、ほろ/\抜けるから来年はどうかな(鬼よ笑へ!)。
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大空をわたりゆく鳥へ寝ころんでゐる
春たけた山の水を腹いつぱい
・晴れきつて旗日の新国道がまつすぐ
・けさも掘る音の筍持つてきてくれた
・摘めば散る花の昼ふかい草
・送電塔が山から山へかすむ山
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四月三十日[#「四月三十日」に二重傍線]
曇、をり/\雨、夕方からどしやぶり。
晩春から初夏へうつる季節に於ける常套病――焦燥、憂欝、疲労、苦悩、――それを私もまだ持ちつゞけてゐる。
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・春もどろどろの蓮を掘るとや
・春がゆくヱンジンが空腹へひびく
・くもりおもたい蛇の死骸をまたぐ
・食べるもの食べつくし雑草花ざかり
・春はうつろな胃袋を持ちあるく
・蕗をつみ蕗をたべ今日がすんだ
・菜の花よかくれんぼしたこともあつたよ
・闇が空腹
・死ぬよりほかない山がかすんでゐる
・これだけ残してをくお粥の泡
・米櫃をさかさまにして油虫
・それでも腹いつぱいの麦飯が畑うつ
・みんな嘘にして春は逃げてしまつた
どしやぶり、遠い遠い春の出来事
・晴れてのどかな、肥料壺くみほして(追加)
・楢の葉の若葉の雨となつてゐる
雨に茶の木のたゝかれてにぶい芽
・ゆふべのサイレンが誰も来なかつた
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朝は、筍をたべてはお茶をのみ、晩は蕗をたべてはお茶をのんだ、昼御飯としては葱汁! 野菜デー[#「野菜デー」に傍点]だつた。
△米櫃に米があるならば、味噌桶に味噌があるならば、そして(ゼイタクをいつてすみませんが)煙草入に煙草があるならば、酒徳利に酒があるならば。――
△春があれば秋がある、満つれば缺げる、酔へば醒める、腹いつぱいも腹ぺこ/\も南無観世音、オンアリヨリカソワカ。
△飯の美味をたゝへ、胃の正直をほめよ。
夕方からどしやぶり、ふれ、ふれ、ふれ、ふれ、ふれ。
大降りの中を樹明君来庵、さつそく銀貨を投げだす、大降りの中を酒買ひにいつた、つゝましい酒だつた、樹明君が御飯をたべてくれたのはめづらしくもまたうれしいことであつた。
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どしやぶりのいなびかり、酒持つて戻るに
・蛙とんできて、なんにもないよ
雨の水音のきこえだしてわかれる
わかれていつた夜
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