さうなる外はない、それが時代おくれであらうと、何であらうと。
何のための出家ぞ、何のための庵居ぞ、落ちつけ、落ちつけ。
「身のまはり」
三日の夜から今朝まで考へつゞけた、そして或る程度の諦観を握ることが出来たので、掃いたり拭いたり、身辺を整理した。
あるのは命だけだ――まだ命だけは残つてゐる。
さびしい昼餉だつた、ソバノコだけだつた。
△やつぱり、昨日を思はず明日を考へず、今日は今日を生きる、これがやつぱり、私の真の生活である。
夕方ひよつこり樹明君来庵、私が落ちついてゐるので、それが彼にはさびしく、さびしすぎて感じられたのだらう、五十銭玉二つを机上に載せて置いて、さう/\と帰つていつた。
この壱円はほんとうにありがたかつた、私は樹明大菩薩を同じ道の友として持つてゐることを喜ぶ。
さつそく店まで出かけて、米を買ひ醤油を買ひ焼酎を買ひ、煙草を買つた、そしてすつかり楽天老人となつた、ノンキナ ヲヂサン バンザイ!
八日ぶりに飯を炊く、それは明けてから最初の御仏飯でもあつた。
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・ひとりで酔ふたら雨が降りだした
雨がふる逢ひたうなる雨が
・酔へばいろ/\の声がきこえる冬雨
(述懐)
煙草のけむり
五十年が見えたり消えたり
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一月八日[#「一月八日」に二重傍線]
晴、すこし胃が痛む、昨夜の飲みすぎ食べすぎのためだらう。
久しぶりに――八日ぶりに入浴した、二銭五厘の享楽である、からだもこゝろもさつぱりした。
△無理に垢をおとすな、無理におとさうとすると皮をむぐぞ。
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楢の枯葉が声だして日をまねくやうだ
・風を、ぬかるみを、売りにゆく米二俵
茶の花や蜂がいつぴき
雑草伸びたまゝの紅葉となつてゐる
虫がおしつぶされてゐる冷たいページ
・枝をはなれぬ枯れた葉と葉とささやく
・風がきて庭の落葉を掃いていつた
泥足袋洗ふにぽつとりどんぐり
・落葉踏みにじりどうしようといふのか
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一月九日[#「一月九日」に二重傍線]
徹夜した、といふよりもあれこれ考へてゐるうちに夜が明けてしまつたのである。
盥に薄氷が張つてゐる、うらゝかな陽が射してゐる。
敬坊からの手紙はあまりにさびしくかなしくした、敬坊よ、しつかりしてくれ、しつかりやつてくれ。
麦飯を食べることにする、経済的理由よりも生理的、生理的よりも心理的理由から。
落葉の掃き寄せをふと見たら、水仙、私の好きな水仙がある、落葉の底から落葉を押し分けて伸び出たのである、生きるものゝ力、伸びるものゝ勢を見て、今更のやうに自然の前に頭がさがつた、私は落葉をのぞき雑草をひきぬいて、すまないけれど私の机上に匂うであらう水仙を祝福した。
夜、樹明、冬村の二君が酒肴持参で来訪、飲んで話した、こゝまではよかつたが、それからワヤになつた(もつとも私はあまりワヤにはならなかつた)、いふまでもなく赤い灯へ、彼女等のテーブルへ、泥酔乱舞の世界へ――。
更けて戻つてから、飯を炊き味噌汁をこしらへた、やれやれ、御苦労、々々々。
火鉢に火があり、米桶に米があり、そして酒徳利に酒があるとは、さてもほがらかな風景であるかな。
慾には銭入に銭があつてほしい!
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・ここでわかれる月へいばりして
・霜の大根ぬいてきてお汁ができた
・たべきれないちしやの葉が雨をためてゐる
・落葉の、水仙の芽かよ
・曇つた寒空できりぼしきりつゞけてる娘さんで
・冬空、何をぶちこはす音か
・猿まはしが冬雨の軒から軒へ
・雨となつた夜の寒行の大[#「大」に「マヽ」の注記]皷が遠く
考へてゐる電燈ともつた
・冬蠅よひとりごというてゐた
・楢の葉の枯れて落ちない声を聴け
[#ここで字下げ終わり]
一月十日[#「一月十日」に二重傍線]
曇、それもよし、雨となつた、それもよし。
御飯のおいしい日であつた、ことに葱のお汁がおいしかつた。
△食べるうまさはたしかに生きてゐるよろこびの一つである。
樹明君が昨夜から行方不明となつてゐることを聞かされて、私は昨日敬治君の手紙を読んだ時のやうに、さびしくかなしかつた、樹明君、お互にしつかりしようぢやありませんか、ほんとうに生きようぢやありませんか、昨日までのやうでは、私たちはあまり下らないぢやありませんか、みじめすぎるぢやありませんか、酒を飲まないぢやない、うまい酒をうまく飲みませうよ。
夜の雨をついて寒行四人連れで来庵、御苦労さまでした。
寝られぬまゝに思ひついたこと二三、――
独酌酔中自楽といふ境界まで行きたいものだ。
健やかな、あまりに健やかな胃袋ではある!
私はたしかに私が不死身[#「不死身」に傍点]の一種であることを信じてゐる。
人生は割り切れるものぢやない、少
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