くとも現実は。
もし人生が割り切れるものならば、それを割り切るものは恋[#「恋」に傍点]と麻酔[#「麻酔」に傍点]と、そして。――
底力のある生活を生活したい。
私から酒をのぞいたら何が残る!(と私はしば/\自問自答する)句が残るだらうか?
酒が何々させた……といふ言葉は何といふ卑劣だらう。
米がなくなつたから餅を食べてゐた、餅がなくなつたから蕎麦の粉を食べてゐた、蕎麦の粉がなくなつたら、さて何を食べようか、野菜でも食べるか、水でも飲むか、その時はその時、明日の事は明日の事にしてゐたら、彼氏が米をくれた、酒までくれた、それはまことに天来の賜物ともいふべきであつた。
水と空気とがタダだからありがたい。
私はだん/\アルコール中毒になりつゝあるらしい、すこし手がふるへだした、アルコールがきれると憂欝を感じる。
自然的自殺[#「自然的自殺」に傍点]、かういふ事実はザラにある、放哉の死もさうだつた、私もさうなりつゝあるらしい。
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・どこやらに水の音ある落葉
水音をたづねて落葉のなかへ
・たたへて冬の水のすこし濁り
・太陽がのぞけば落葉する家や
たんぽぽはまだ咲かない雨の水だまり
・けふは水がある川の何やかや流れる
長い手紙をかけばしたしく虹がたち
・あれこれ食べる物はあつて風の一日
[#ここで字下げ終わり]
よい眼ざめであつた、しづかなよろこびがあふれた、私はひとり、ゆう/\として一日を暮らした、しかしお天気はよくなかつた、雨風だつた。
敬治君へ長い手紙を書いた、私の心はきつと通じる、お互にもうアルコールの繋縛から脱してもよい時節である。
うれしい酒をのむがよい、酒は涙でもなければ溜息でもない、天の美禄だ、おいしい酒をおいしく飲まなければ嘘だ。
風を聴く、風もよいかな。
今日も御詠歌組がやつてきた、二銭あげる、昨夜の二銭とこの二銭とでサイフはナイフになつてしまつた、此次やつてきたら何をあげようかな(もう米もない、紙でもあげるか)。
△敵は味方に似せてゐるときいたが、まつたくそのとほりだつた、今朝、ほうれんさうを摘む時、似而非ほうれんさうをたくさん見つけた、ほうれんさうらしい草がほうれんさうにまぢつて生えてゐた。
嵐の跡――といふ感じがする、とにかく嵐は過ぎた。
酔うて乱れる酒は断じて飲まないことを山頭火が山頭火に宣誓した。
△ホントウとアタ
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