する、経済的理由よりも生理的、生理的よりも心理的理由から。
落葉の掃き寄せをふと見たら、水仙、私の好きな水仙がある、落葉の底から落葉を押し分けて伸び出たのである、生きるものゝ力、伸びるものゝ勢を見て、今更のやうに自然の前に頭がさがつた、私は落葉をのぞき雑草をひきぬいて、すまないけれど私の机上に匂うであらう水仙を祝福した。
夜、樹明、冬村の二君が酒肴持参で来訪、飲んで話した、こゝまではよかつたが、それからワヤになつた(もつとも私はあまりワヤにはならなかつた)、いふまでもなく赤い灯へ、彼女等のテーブルへ、泥酔乱舞の世界へ――。
更けて戻つてから、飯を炊き味噌汁をこしらへた、やれやれ、御苦労、々々々。
火鉢に火があり、米桶に米があり、そして酒徳利に酒があるとは、さてもほがらかな風景であるかな。
慾には銭入に銭があつてほしい!
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・ここでわかれる月へいばりして
・霜の大根ぬいてきてお汁ができた
・たべきれないちしやの葉が雨をためてゐる
・落葉の、水仙の芽かよ
・曇つた寒空できりぼしきりつゞけてる娘さんで
・冬空、何をぶちこはす音か
・猿まはしが冬雨の軒から軒へ
・雨となつた夜の寒行の大[#「大」に「マヽ」の注記]皷が遠く
 考へてゐる電燈ともつた
・冬蠅よひとりごというてゐた
・楢の葉の枯れて落ちない声を聴け
[#ここで字下げ終わり]

 一月十日[#「一月十日」に二重傍線]

曇、それもよし、雨となつた、それもよし。
御飯のおいしい日であつた、ことに葱のお汁がおいしかつた。
△食べるうまさはたしかに生きてゐるよろこびの一つである。
樹明君が昨夜から行方不明となつてゐることを聞かされて、私は昨日敬治君の手紙を読んだ時のやうに、さびしくかなしかつた、樹明君、お互にしつかりしようぢやありませんか、ほんとうに生きようぢやありませんか、昨日までのやうでは、私たちはあまり下らないぢやありませんか、みじめすぎるぢやありませんか、酒を飲まないぢやない、うまい酒をうまく飲みませうよ。
夜の雨をついて寒行四人連れで来庵、御苦労さまでした。
寝られぬまゝに思ひついたこと二三、――
独酌酔中自楽といふ境界まで行きたいものだ。
健やかな、あまりに健やかな胃袋ではある!
私はたしかに私が不死身[#「不死身」に傍点]の一種であることを信じてゐる。
人生は割り切れるものぢやない、少
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