しきる
 お正月の雪がつみました
 雪の鴉のなが/″\ないて
 雪のまぶしくひとりあるけば
・茶の木の雪をたべる
 わが庵は雪のあしあとひとすぢ
 雪ふかうふんで水わくところまで
 雪あしたくみあげる水の澄みきつて
・わらやしたしくつららをつらね
 雪の晴れてうれしい手紙うけとつた
・よう燃える火でわたしひとりで
・雪から大根ぬいた
 雪風、大またであるく
 大根うまい夜のふけた
   また樹明君に
・産後おだやかな山茶花さいてたか
[#ここで字下げ終わり]

 一月廿七日[#「一月廿七日」に二重傍線]

よい朝、つめたい朝、すこし胃がわるくて、すこしにがい茶のうまい朝(きのふの破戒――シヨウチユウをのみ、ウイスキーをのんだタタリ)。
何もかもポロ/\だ、飯まで凍てゝポロ/\。
けふも雪、ちらりほらり。
さすがの私も今日ばかりは、サケのサの字も嫌だ、天罰てきめん、酒毒おそるべし/\、でも、雪見酒はうまかつた/\。
また、米がなくなつた、しかし今日食べるだけの飯はある、明日は明日の風が吹かう、明日の事は明日に任せてをけ――と、のんき[#「のんき」に傍点]にかまへてゐる、あまりよくない癖だが、なほらない癖だ。
自製塩辛がうまかつた。
午後はだいぶあたゝかくなつた、とけてゆく雪はよごれて嫌だ。
△満目白皚々、銀※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1−88−72]盛雪、好雪片々不落別処(すこし、禅坊主くさくなるが)、などゝおもひだす雪がよい。
遺書をいつぞや書きかへてをいたが、あれがあると何だか今にも死にさうな気がするので(まだ死にたくはない、死ぬるなら仕方もないが)、焼き捨てゝしまつた、これで安心、死後の事なんかどうだつてよいではないか、死後の事は死前にとやかくいはない方がよからう。
原稿も書き換へることにした、どうも薄つぺらなヨタリズムがまじつて困る、読みかへして見て、自分ながら嫌になつた、感興のうごくまゝに書いてゆくのはよいが、上調子になつては駄目だ。
△奇績[#「績」に「マヽ」の注記]を信じないで、しかも奇績を待つてゐる心は救はれない、救はれたら、それこそ奇績だらう。
自己陶酔――自己耽溺――自己中毒の傾向があるではないかと自己を叱つてをく。
いちにち、敬坊を待つた(今明日中来庵の通知があつたから)。
焚火するので、手が黒く荒れてきた、恐らくは鼻の穴も燻ぶつ
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