去帳[#「過去帳」に傍点]――自叙伝(これは長くなる)。
やつぱり御飯がたべたい、米がほしい、私は日本人だから、日本的日本人[#「日本的日本人」に傍点]だから(しかし、この豊葦原の瑞穂の国に生れてきて、酒がのめるとはうれしいな!)。
ゆふべ、枯枝をひろひあるいて、二句作つたが、放哉坊の『枯枝ぽきぽき折るによし』には、とてもとても。
昨日今日の新聞は、第二共産党検挙記事で賑やかな事此上なし、共産党そのものは私の批判以外の事件だが、彼等党人の熱意には動かされざるを得ない、人と生れて、現代に生きてゆくには、あの熱意がなければならない、私は自から省みて恥づかしく、そして羨ましく思つた。
学校からの帰途、樹明君が寄つてくれた、ほんとうに久しぶりだつた(こゝへきてから逢はなかつた時日に於て最長レコード)、かはつた事がなくて、元気な顔を見てうれしかつた(先日、たしか十一日にやつてきた時は色身憔悴だつた)、そしておみやげをいろ/\貰つた、干魚、塩辛、インキ、そしてバツト。
何やかや食べて飲んで、腹がいつぱいになつたけれど、御飯を食べないものだから、何だか力がなくて労[#「労」に「マヽ」の注記]れてゐる、日本人は(今日以後の若い人は、私たちより時代のちがふ若い人は別として)やつぱり、米喰ふ虫[#「米喰ふ虫」に傍点]だ。
早く、寝床にはいつて漫読する、野上八重[#「八重」に「マヽ」の注記]子さんの小説の文章の気のきいてゐるのに感心した。
それでは、けふはこれでさようなら。
書き漏らした事をもう一つ、――今夜はどうしたわけか、やたらに溜息がでる、はてめんような、これは何の溜息でござるか!
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・湯がわいてくる朝日をいれる
・枯木よりそうて燃えるあたゝかさ
・あたゝかく枯枝をひろうてあるく
・ゆふべの枯枝をひろへばみそつちよ
 夕風の枯草のうごくは犬だつた
・更けて荷馬車の、人が馬が息づいて寒い星のまたたき
・落葉鳴らして火の番そこからひきかへした
・つめたいたたみをきて虫のぢつとしてゐる
 落葉ふかく藪柑子ぽつちり
 すこし日向へのぞいて藪柑子
 ちぎられて千両の実のうつくしくちらばつて
・日向の梅がならんで満開
・夜どほしで働らく声の冴えかえる空
 冴えかえる夜でようほえる犬で
 たたずめばどこかで時計鳴る
   句賛として四[#「四」に「マヽ」の注記]句
 一日花
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