びがしづかにわく、そのよろこびを味ふ、しづかな雨がふる、その雨を味ふ。
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・冬ぐもり、いやな手紙をだしてきたぬかるみ
・あたたかし火を焚いて古人をおもふ
・芥うかべて寒の水の澄まうとする雲かげ
・寒い朝の土をもりあげてもぐらもち
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一月十七日[#「一月十七日」に二重傍線]
けさはゆつくり朝寝した、寝床のなかで六時のサイレンをきいた。
雨がふつてゐる、おちついて何かと仕事をする。
あるだけの米を粥にした、大根の浅漬がおいしい。
忘れてゐた※[#「魚+昜」、273−5]をかみつゝ、三八九印刷、紙があるだけ。
三八九、何から何まで私一人の仕事である、書く、刷る、綴ぢる、送る、等、等。
△おだやかに、けちけち[#「けちけち」に傍点]せずに、つつましく、くよくよ[#「くよくよ」に傍点]せずに。
一月十八日[#「一月十八日」に二重傍線]
くもり、はれる、そしてまたくもる。
きのふ一通、けふ一通、いやな手紙をかいてだす。
五厘銅貨でなでしこの小袋を買ふ、村のデパートで、そして、そこのおかみさんが五厘銅貨を歓迎してくれた!(豆腐油揚が弐銭五厘なので釣銭として五厘銅貨がほしいといつた)
古木を焚いて湯を沸かして砂糖湯を飲む、うまい。
酒はこらえられるが、煙草はなか/\こらえにくいものである、その煙草を三日ぶりに喫ふたのである。
△身貧しくして道貧しからず、――負け惜みでもなく、諦めでもなく、それは今日の私の実感であつた。
木がある水がある、塩がある、砂糖がある、……しかし、古木を焚いて(炭がないから)砂糖湯を啜る(米がないから)といふ事実はさみしくないこともない、さみしくてもありがたい、湯がたぎる、りん/\とたぎる、その音はよいかな、ぱち/\と燃える音はいはでもがな。
かうして生きてゐる、それは生活といふべくあまりにはかないであらうけれど、死ねないあがきではない、やすらかである。
△水仙のきよらかさ、藪柑子のつゝましさ、雑草のやすけさよ。
けふも鴉が身にせまつて啼く。
晩には食べるものがないから、大根を三本(大根三本の命ともいへる)ひきぬいて、それを煮て食べた、それで十分だつた、大根は元来うまいものだが、こんばんの大根はとりわけうまかつた、こんなにうまい大根をたべることが出来たのはありがたいことだ、しかしこれでいよ/\食べるも
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