引留められるのを断つて二時の夜行列車で防府まで、もう御神幸はすんでゐた、夜の明けるまで街を山を歩きまはつた、此地が故郷の故郷だ、一草一木一石にも追憶がある。
佐かた利園はやつぱりよかつた、国分寺もよかつた。
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石へ月かげの落ちてきた
□
街はお祭の、せつせと稲を刈つてゐる
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十一月十三日
ます/\憂欝になる、白船居でめぐら[#「ら」に「マヽ」の注記]れた快活が防府でまたうばはれてしまつたのだ。
篤君に逢つたのはうれしかつた、そして東路君に逢へなかつたのは、遺憾といふよりも不快だつた。
一時の汽車で戻つた、戻つたことは戻つたけれど、ぢつとしてゐられないから、街へ出かけてシヨウチユウを呷つた、そして脱線しえられるだけ脱線したらしい(意識が朦朧としてゐたから)。
十一月十四日――十七日
ブランク、強ゐて書けば、降つたり晴れたり、寝たり起きたり、泣いたり笑つたり。
十一月十八日
柿はすつかり葉をおとした、裸木もそうごんなものだ。
茶の花ざかり、枇杷の花ざかり。
十一月十九日
どうにもかうにもやりきれないから、一升借りてきて一杯やつてゐるところへ樹明君来庵、さしつさゝれつ、こゝろよく飲んだ、そして街までいつしよに出かけて、また二三杯。
私はいつものやうでなく、しつかりしてゐたが、樹明君は日頃に似合はず酔ひつぶれてしまつたらしい(私は先に帰つてきた)、君の酔態を観てゐると、私は私自身の場合よりも悲しく感じる。
十一月二十日
未明に樹明君がひよろ/\してやつてきた、そして一日寝て暮らした、みじめな二人だつた。
樹明君は夕方に帰宅して、またやつてきた、あの良妻をごまかしたのである、私は家庭争議の起らなかつたことを喜ぶと同時に、君の酒癖を憎まずにはゐられなかつた。
樹明君の妻君に幸福あれ。
今日一日、私はめづらしく冷静だつた。
十一月廿一日
私の近来の生活はただ愚劣[#「愚劣」に白三角傍点]の一語に尽く。
十一月廿二日
独坐、読書。
十一月廿三日
すこし気分がよくなつた、一升借りてきて樹明君と飲む。
夜、街の人々といつしよに飲んだ、可もなく不可もない酒だつた、樹明君から或る家庭争議を聞いた、情痴といふやうな事は私にはよく解らない。
十一月廿四日
しぐれ、しぐれ、しぐれ。
ありがたい米をいたゞいた、お米観音とでもいはうか。
柿もぎにきたS家の子供がやたらに花をむしる、それをSがむやみにむしるなと叱る、しかしS自身が花をむしつてゐるのだ、彼はそれを花瓶に活けるではないか!
胃袋が強すぎて頭脳が弱すぎる、それが私だ、また、胃袋は正直で頭脳は横着だ、それは誰もだ。
十一月廿五日
けふもしぐれる、身心やゝよろしくなる。
こほろぎの子、あぶらむしの子、子は何でもかあいらしい。
雨に汚れ物――茶碗とか鍋とか何とか――を洗はせる、といふよりも洗つてもらふ。
俳句講座を漫読して、乙二[#「乙二」に白三角傍点]を発見した、何と彼と私とはよく似てゐることよ、私はうれしかつた、松窓七部集が読みたい、彼について書きたい。
けふはほんとうにしみ/″\としぐれを聴いた。
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・さんざふる夜の蠅でつるみます
・たゞ一本の寒菊はみほとけに
・山茶花さいてお留守の水をもらうてもどる
・誰かきさうな空からこぼれる枇杷の花
・しぐれたりてりだしたりこゝそこ茶の花ちつて
・冬蠅とゐて水もとぼしいくらし
改作二句
この柿の木が庵らしくするあるじとして
こゝにかうしてみほとけのかげわたしのかげ(晩課諷経)
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十一月廿六日
徹夜、ほんとうの自分をとりもどす。
澄むなら澄みきれ、濁るなら濁りきれ、しかし、或は澄み或は濁り、いや、澄んだらしく、濁つたらしく、矛盾と中途半端とを繰り返すのが、私の性情らしい。
いくら考へても仕方がないから歩いた、私はやつぱり歩かなければならないのだ、歩きつゝ考へ、考へつゝ歩くのだ、そして歩くことがそのまゝ考へることになるかも知れない[#「歩くことがそのまゝ考へることになるかも知れない」に傍点](此場合の『歩くこと』は必ずしも行乞流転を意味しない)。
櫨を活ける、燃えあがる情熱だ、同時に情熱の沈潜だ、赤の沈黙だ、自然の説法だ。
久しぶりに掃いた、柿の葉はすつかり散つてしまつて、枇杷の花がほろ/\こぼれる、森の栗の葉がちらほらとんでくる。
落ちついて身辺整理、机の上が塵だらけだつた。
人生は『何を』でなく『如何に』ではないかとも思ふ、内容は無論大切だが、それはそれを取扱ふ態度によつてきまるのではあるまいか。
樹明君が来て、私の姿は山男のやうだとひやかす、ひやかしぢやない、じつさいなのだらう、山から来た
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