]だ、参。
一人はよいかな、日向ぼつこしてゐる私は一人だよ。
湯屋まで出かける、イージーゴーイングな自分に鞭ちつゝ早々帰庵した。
ゲルトなし、アルコールなし、エゴなし。
Sさん一家族みんなで柿もぎに来た、子供はうるさいね、裏畑の柿をもぐべく、近所の娘さんが二人連れで来た、ナツメを下さいといふ、サア/\おとりなさい、いんぎんに礼をいつて行つた、若い女性はやつぱりわるくないな。
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・酔へばやたらに人のこひしい星がまたゝいてゐる
裏からつめたく藪風のふきぬけてゆく
・わかれてもどる木の実をひらふ
・秋あつくせりうりがはじまつた
・月に咲けるはそばのはな
・寝るよりほかない月を見てゐる
(放哉坊の句とは別な味があると思ふが)
[#ここで字下げ終わり]
昨日の買物(此言葉はよい)、――
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一、端書切手 十銭(私の買物はいつでも郵便局からはじまる、何故!)
一、線香 一 六銭 一、茶 一袋 十銭
一、煙草([#ここから割り注]バツトナデシコ[#ここで割り注終わり])十一銭 一、小バケツ 十二銭
一、いりこ五十目 十三銭 一、菜葉二把 四銭
一、焼酎一合 十二銭 一、ノート一冊([#ここから割り注]日記用[#ここで割り注終わり])八銭
合計金 八十六銭也
(財布にまだ一円ばかり残つてゐたが、例のワヤで、酒や豆腐や松茸になつてしまつた)
[#ここで字下げ終わり]
とにかく、近頃の私は飲みすぎる、遊びすぎる、生死の一大事を忘れてはゐないけれど、やゝすてばち気分[#「すてばち気分」に傍点]に堕してゐることを痛感する、こんなことで何が庵居だ、何の句作だぞといひたくなる、清算、精進、一念一路の真実[#「一念一路の真実」に傍点]に生きよ。
私は柿を愛する、実よりも樹を、――あの武骨な枝、野人的な葉、そこには近代的なものはないが、それだけ日本的だ、日本的なもの以外には何物もない(もつとも近来だいぶ改良されてはゐるが)。
小さな犯罪、それを私は敢てした、裏畑の茗荷の子を盗んだのである、忘れられた茗荷の子だ、不運なその子は私の胃の腑で成仏しなければならなかつた。
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追加二句
・三日月のどこやら子供の声がある
・夜なべの音の月かげうつる
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十月十日
今朝も朝寝だつた、といつても五時過ぎだつたが。
咳嗽には閉口する、閉口しながら、酒は飲むし、辛いものは食べるし、そして薬は飲まないのだから、それが当然だらう。
暁の百舌鳥の声は鋭い。
俊和尚からのハガキ一枚、それがどんなに私を力づけたか(昨日、預けてあつた冬物を、寒いので急に思ひだしたといつて送つてくれたのである)。
ほんとうによいお天気だ、洗濯をする(三枚しかない)、雑巾がけをする、気持がシヤンとした。
さてもうらゝかな景色ぢやなあ、ほがらかなことでござる。
大根を間引く、間引いたのはそのまゝお汁の実。
人間は――少くとも私は――同じ過失、同じ後悔を繰り返し、繰り返して墓へ急いでゐるのだ、いつぞや、口の悪い親友が、私のぐうたらを観て、よく倦け[#「け」に「マヽ」の注記]ませんね、おなじ事ばかりやつてゐて、――といつたが、それほど皮肉を感じたことはなかつた、現に、小郡に来てからでも、私は相も変らず酒の悪癖から脱しえないではないか。……
午後入浴、自分で剃髪する、皮膚がピリ/\するので利久[#「久」に「マヽ」の注記]帽をかぶつたまゝで起居する、いやどうも自分ながら古くさくなつたぞ、破被布を羽織つて、茶人帽をいたゞいて火鉢の縁を撫でゝゐては、あまりに宗匠らしい、咄。
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二葉となりお汁の実となり(大根の芽生に)
日本晴れの洗濯ですぐ乾く
・萩もをはりの、藤の実は垂れ
・くみあげる水がふかい秋となつてきた
ふるさとのそばのあしいよ/\あかし
さみしさがけふも墓場をあるかせる
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さみしいから(或る日はアルコールでまぎらすけれど)あてもなくあちこちあるきまはる、藁麦畑、藷畑、墓場、大根畑、家、人。
このあたりは柿も多いが椿も多い、前のF家の生垣は椿である、ところ/″\に大椿がある、実がなつてゐる、家に乾してもあるだらう。
井戸の水が毎朝めつきり減つてゆく、釣瓶の綱をつないでもまたつないでも短かくなる、こゝにも深みゆく秋の表現がある。
だん/\食べるものがなくなつてゆく、――もう醤油も味噌も酢もなくなつたが、――まだ塩がある(米だけは、ありがたいことは大丈夫だ、樹明菩薩が控へておいでだから!)。
掃くよりも落ちるが早い柿の葉だ、掃いたところへ散つた葉はわるくない(私もだいぶ神経質でなくなつたやうだ
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