が空即空だ、十方無礙の空であり、不生不滅の色である、色に執するが故に色を失ふ、空を観じて色に徹するのぢやない、色に住して色に囚へられないが故に空に徹するのである、喝。
私はしゆくぜんとして私を観た。――
十二月二十日
風の、己の、その声を聴く。
十二月廿一日
身辺をかたづけた、昨日も今日も。
夜、樹明来、暫らく話してから街へ出る、すぐ別れて、酒三杯、それでよい、それでよい。
「さびしい」から「さみしさ」へ、それから「さび」へ。
自己に執せずして人類に執する心(五十歩百歩だが)。
ウソをいふな、ホントウがいへないまでも。
食慾から食慾へ、それが人間らしい、子供の食慾、老人の食慾、その間に色々のものがある。
愛よりも信[#「愛よりも信」に傍点](鳥潟令嬢の結婚解消事件に対して)。
十二月廿二日
ぐつすり寝た、大霜だ、冬至、私はうらゝかだ。
熊本の山中さんからありがたい手紙が来た。
農学校の農産物品評会、満蒙展覧会見物。
樹明君を招いて、鰯で一杯やる、暮れてから送つてゆく。
先月分の電燈料を払ひ、例のインチキカフヱーのマイナス五十銭を払ふたのは近来の大出来だつた。
台所に空罎がもう五六本並んでゐる、まことに其中庵風景の豪華版だ!
大風一過[#「大風一過」に傍点]、うらゝかに木の葉ちるかなである[#「うらゝかに木の葉ちるかなである」に傍点]。
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・あぶない橋をわたれば影
星が流れる二人で歩く寒いぬかるみ
月並一句、自嘲自戒
われとわが□をせばめたる茶の木哉???
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十二月廿三日
久しく滞つてゐた水が流れはじめたやうな気分だ、流れる、流れる、流れるまゝに流れてゆく。
身辺整理、出すべき手紙をだし、捨つべきものは捨てた。
自然を味へ[#「自然を味へ」に傍点]、ほんとうに味へ、まづ身を以て、そして心を以て、眼から耳から、鼻から舌から、皮膚から、そして心臓へ、頭へ、――心へ。
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・小春日をあるけば墓が二つ三つ
・風をききつつ冷飯をかみつつ
・凩のふけてゆく澄んでくる心
△ △ △
我昔所造諸悪業
皆由無始貪瞋癡
従身口意之所生
一切我今皆懺悔
[#ここで字下げ終わり]
今日今時、我と我が罪過を悔い悪行を愧ぢて、天上天下、有縁無縁、親疎遠近、一切の前に低頭し合掌す、願はくは此
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