てはならない)、中耕、中耕、なるほどさうか!
昨日今日のよい気分が夜になつて少々いら/\してきた、早く寝床にはいる、とても寝つかれはしないけれど。
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・電燈から子蜘蛛がさがりれいろうと明ける
・朝はよいかな落ちた葉も落ちぬ葉も
とほくちかく稲こぐひゞきの牡丹咲いてゐる
・こんなところに茶の花がけさの雰囲気
・掃いてきて何とこれがらつきようの花
わたくしのほうれんさうが四つ葉になつた
あゝしてかうして草のうへで日向ぼこして
蠅が、秋蠅がもつれより
・病人を見送つて落葉する木まで
・恋のこうろぎが大きい腹をひきずつて(改)
[#ここで字下げ終わり]
今日の所感二三追記する。――
茹でた章魚《タコ》を切りながら、章魚といふものをよく見て、もう章魚のうまさの半分を無くしてしまつた、それほど章魚は怪物だ、グロのグロだ、章魚を最初に食した人間はよほどの人間(賢愚によらず)であつたに違ひない、海鼠も怪物だが、彼には何処となく愛嬌がある、章魚を食べるに比べては、蚯蚓や蛞蝓や蜘蛛や百足位は何でもないのに、前者は賞美せられて、後者は見向きもされない、なるほど習慣といふものは恐ろしいと思ふ。
坊主の綽名を鮹ともいふ、頭部がつるり[#「つるり」に傍点]としてゐるからだらうが、私ばかりでなく坊主には鮹好きが多い、とにかく私は鮹好きだが、自分で料理すると、あのぬめ[#「ぬめ」に傍点]/\した吸盤が眼について、食慾をそゝられない、総じて日本料理は眼[#「眼」に白三角傍点]で最初に食べ、そして舌[#「舌」に白三角傍点]で味ふ品が多いが、鮹は見ないで、舌、いや歯[#「歯」に白三角傍点]で食べるべきだらう。
畑をいつも飛びまはつてゐるこうろぎも、もう孕んでゐるらしい、手や足が一本位ないのが多い、恋の痛手とはこのことだらう。
粥[#「粥」に白三角傍点]といふものには特殊な情趣がある、今日は樹明君と二人で粥を煮て食べたが、何だかしみ/″\としたものを感じた、庵には誰も来ない二人で二人の夜を――といふ樹明君の近作があるが、あのあつい粥をふき/\すゝりあふところにはしたしさそのものが湯気のやうにたちのぼるやうだつた。
十七日から今日まで十三日間、よく私も辛抱した、十七日の朝、財布をしらべたら二十五銭あつた、そこで十銭が醤油、五銭が撫子、十銭が焼酎となつて、まつたくの一文なしとなつ
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