るく

水のゆふべのすこし波立つ

燃えに燃ゆる火なりうつくしく

     再会

握りしめる手に手のあかぎれ

囚人の墓としひそかに草萌えて

     となりの夫婦

やつと世帯が持てて新らしいバケツ

     日支事変

木の芽や草の芽やこれからである

赤字つづきのどうやらかうやら蕗のとう

机上一りんおもむろにひらく

     三月、東へ旅立つ

旅もいつしかおたまじやくしが泳いでゐる

春の山からころころ石ころ

啼いて鴉の、飛んで鴉の、おちつくところがない

風は海から吹きぬける葱坊主

     伊良湖岬

はるばるたづね来て岩鼻一人

     渥美半島

まがると風が海ちかい豌豆畑

     鳳来寺拝登

お山しんしんしづくする真実不虚

     青蓋句屋

花ぐもりピアノのおけいこがはじまりました

     浜名街道

水のまんなかの道がまつすぐ

     秋葉山中

石に腰を、墓であつたか

水たたへたればおよぐ蟇

     天龍川をさかのぼる

水音けふもひとり旅ゆく

山のしづけさは白い花

[#ここから5字下げ]
若水君と共に高遠城阯へ、緑
前へ 次へ
全34ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング