いと芋が落ちてゐたので芋粥にする

しぐれしたしうお墓を洗つていつた

秋ふかい水をもらうてもどる

ひとりの火をつくる

生きてしづかな寒鮒もろた

草はうつくしい枯れざま

藁塚藁塚とあたたかし

     樹明君に

落葉ふみくるその足音は知つてゐる

やつぱり一人はさみしい枯草

落葉してさらにしたしくおとなりの灯の

風の中からかあかあ鴉

葉の落ちて落ちる葉はない太陽

何事もない枯木雪ふる

ことしも暮れる火吹竹ふく

お正月が来るバケツは買へて水がいつぱい

     昭和十二年元旦

今日から新らしいカレンダーの日の丸

     自画像

ぼろ着て着ぶくれておめでたい顔で

あつまつてお正月の焚火してゐる

雪ふる食べるものはあつて雪ふる

みぞるる朝のよう燃える木に木をかさね

しみじみ生かされてゐることがほころび縫ふとき

いつも出てくる蕗のとう出てきてゐる

     緑平老に

かうして生きてはゐる木の芽や草の芽や

雪ふれば酒買へば酒もあがつた

ひらくよりしづくする椿まつかな

てふてふうらうら天へ昇るか

     自戒

一つあれば事足る鍋の米をとぐ


 柿の葉はうつくしい、若葉も青葉も――ことに落葉はうつくしい。濡れてかがやく柿の落葉に見入るとき、私は造化の妙にうたれるのである。

  あるけば草の実すわれば草の実
  あるけばかつこういそげばかつこう
 そのどちらかを捨つべきであらうが、私としてはいづれにも捨てがたいものがある。昨年東北地方を旅して、郭公が多いのに驚きつつ心ゆくまでその声を聴いた。信濃路では、生れて始めてその姿さへ観たのであつた。

  やつぱり一人がよろしい雑草
  やつぱり一人はさみしい枯草
 自己陶酔の感傷味を私自身もあきたらなく感じるけれど、個人句集では許されないでもあるまいと考へて敢て採録した。かうした私の心境は解つてもらへると信じてゐる。
[#地から1字上げ](昭和丁丑の夏、其中庵にて 山頭火)


   銃後


[#ここから5字下げ]
天われを殺さずして詩を作らしむ
われ生きて詩を作らむ
われみづからのまことなる詩を
[#ここで字下げ終わり]

     街頭所見

日ざかりの千人針の一針づつ

月のあかるさはどこを爆撃してゐることか

秋もいよいよふかうなる日の丸へんぽん

ふたたびは踏むま
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