が出来る。
悪魔の手は掴もう掴もうとしている。それだけでも悪魔の心は親しいものではないか。
結婚して後悔しないものが何人あるか、親となって後悔しないものが何人あるか。――私も亦、その何人の中の一人であることを悲しむ。
最初には酔覚の水がうまくて水を飲んでいたが度々飲み続けているうちに、水そのものを味わい飲むようになった。そして水を飲まずにはいられないようになった。
彼が真実を主張したとき、彼の周囲の人々は同意し讃嘆した。しかし彼が進んで真実を実行したとき、人々は怒罵し嘲笑した。斯くして彼は彼の周囲から永久に別れてしまったのである。
強者は破壊する、弱者は弥縫する。強者は創造する、弱者は模倣する。
すべてに失望した人――生きていても詰らない、死ぬるのも詰らないと思う人は再び官能の陶酔に帰って来る。そして野良猫が残肴を漁るように、爛れた神経の尖端で腐肉の中を吸いまわる。彼は闇にうごめく絶望の影である。しかも彼は往々にして――若しも彼が真摯であるならば――そこで『神の子を孕める悪魔』を捉えることがある。
遊蕩児にただ一つ羨ましい事がある。彼は歓楽の悲哀――それは恐
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