赤い壺
種田山頭火
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)啀《いが》み
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](「層雲」大正五年一月号)
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『あきらめ』ということほど言い易くして行い難いことはない。それは自棄ではない、盲従ではない、事物の情理を尽して後に初めて許される『魂のおちつき』である。
私は酒席に於て最も強く自己の矛盾を意識する、自我の分裂、内部の破綻をまざまざと見せつけられる。酔いたいと思う私と酔うまいとする私とが、火と水とが叫ぶように、また神と悪魔とが戦うように、私の腹のどん底で噛み合い押し合い啀《いが》み合うている。そして最後には、私の肉は虐げられ私の魂は泣き濡れて、遣瀬ない悪夢に沈んでしまうのである。
私自身は私というものを信ずることが出来ないのに他人が私を信じてくれるとは何という皮肉であろう!
遠い死は恐ろしく近い死は懐かしい。
死を意識して、そして死に対して用意する時ほど、冷静に自己を観照することはない。死が落ちかかれば自己の絶滅であるが、死の近づき来ることによって自己の真実を掴むこと
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