かし夜はいかに長くても遂には明けるであろう。明けざるをえないであろう。闇の寂しさ恐ろしさに堪えて自己を育てつつある人の前には、きっと曙が現われて来る。

 同情したからとて涙を流す勿れ、同感だといって手を拍つ勿れ。心と心とのつながりは屡々、涙を流したり拍手したりすることのために破られた。

 二羽の雀が一銭であるとて嘆く勿れ。それは死んだ雀の価である。生きた雀は自由に大空を翔けりつつあるではないか。

 傷づけられて――傷づけられることによって生きてゆくものがある。

 自己の醜劣に堪え得なくなって、そして初めて自己の真実を見出し得るようになる。

 義人は苦しむ。偉大なる義人とは深刻なる苦痛を甞めて来た人である。

 正しきものは苦しまざるを得ない。正しきものは、苦しめば苦しむほど正しくなる。苦痛は思想を深め生活を強くする。苦痛は生を浄化する。

 真面目な人と真面目な人とが接したところにのみ生の火花が閃めく。彼等は友となるか、然らざれば敵となる、敵とならなければ友とならざるを得ないからである。

 日本人ほど自然を眺める国民はない。そして日本人ほど自然を知らない国民はない。

 日
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング