赤い壺(二)
種田山頭火
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)夫々《それぞれ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](「層雲」大正五年二月号)
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自分の道を歩む人に堕落はない。彼にとっては、天国に昇ろうとまた地獄に落ちようとそれは何でもない事である、道中に於ける夫々《それぞれ》の宿割に過ぎない。
優秀な作品の多くは苦痛から生れる。私は未だ舞踏の芸術を解し得ない。私は所謂、法悦なるものを喋々する作家の心事を疑う。此意味に於て、現在の私は『凄く光る詩』のみを渇望している。
涙が涸れてしまわなければ、少くとも涙が頬を流れないようにならなければ、孤独の尊厳は解らない。
ほんとうに苦しみつつある人は、救われるとか救われたいとかいうことを考えない。そういう外的な事を考えるような余裕がないのである。
空には星が瞬たいている。前には海が波打っている。曙を待つ私の心は暗い。この暗さの中で私の思想は芽吹きつつある。私は悩ましい胸を抑えて吐息を洩らしている。その吐息の一つ一つが私の作品である。
夜は長いであろう。し
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