帰る、練兵場を横ぎりそこなって、うろうろしたけれど、さわりなく帰れた、そしてすぐ寝た。
  ………………………………………
(ここで私は宿の妻君に改めて感謝しなければならない、まことによい宿であった、よい妻君であった、私はとうとう二十日近くも滞在してしまった(事[#「事」に「ママ」の注記]情がそうさせたのであるが、宿がよくなかったならば、私はどこかへとびだしたであろう)。
四国巡拝中の遍路宿で、もっとも居心地のよい宿と思う(もっとも木賃料は四十銭で、他地方よりも十銭高いけれど、道後の宿一般がそうなのである、それでも一日三食たべて六十五銭乃至七十銭)。
夜の敷布上掛はいつも白々と洗濯してある、居間も便所も掃除が行き届いている、食事もよい、魚類、野菜、味噌汁、漬物、どれも料理が上手でたっぷりある、亭主は好人物にすぎないらしいが、妻君は口も八丁、手も八丁、なかなかの遣手だった。

 十二月十五日 晴(重複するけれど改めて記述する)

とうとうその日[#「その日」に傍点]――今日が来た、私はまさに転一歩[#「転一歩」に傍点]するのである、そして新一歩しなければならないのである。
一洵君に連れら
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