えられて、二里ちかく奥にある池川町へ出かけて行乞、九時から十二時まで、いろいろの点で、よい町であった(行きちがう小学生がお辞儀する)。
行乞成績は銭七十九銭、米一升三合、もったいなかった(留守は多かったけれど、お通りは殆んどなかった、奥の町はよいかな)。
渓谷美[#「渓谷美」に傍点]、私の好きな山も水も存分に味った、野糞山糞[#「野糞山糞」に傍点]、何と景色のよいこと! 三時には帰って来て、川で身心を清め、そして一杯すすった。
明けおそく暮れ早い山峡の第二夜が来た、今夜は瀬音が耳について、いつまでも睡れなかった。
宵月、そして星空、うつくしかった。
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“谿谷美”
“善根宿”
“野宿”
行乞しつつ、無言ではあるが私のよびかける言葉の一節、或る日或る家で――
“おかみさんよ、足を洗うよりも心を洗いなさい、石敷を拭くよりも心を拭きなさい”
“顔をうつくしくするよりもまず心をうつくしくしなさい”
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(十一月十六日)(十一月十七日)(十一月十八日)
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あなたの好きな山茶花の散つては咲く(或る友に)
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野宿

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