たい
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秋のたより一ト束おつかけてゐた
波音の松風の秋の雨かな
歩るくほかない秋の雨ふりつのる
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 十一月五日 快晴、行程五里、佐喜浜、樫尾屋。

すっきり霽れあがって、昨日の時化は夢のように、四時に起きて六時立つ。
今日の道[#「今日の道」に傍点]はよかった、すばらしかった(昨日の道[#「昨日の道」に傍点]もまた)。
山よ海よ空よと呼かけたいようだった。
波音、小鳥、水、何もかもありがたかった。
太平洋と昇る日[#「太平洋と昇る日」に傍点]!
途中時々行乞。
お遍路さんが日にまし数多くなってくる、よい墓地があり、よい橋があり、よい神社があり、よい岩石があった。……
おべんとうはとても景色のよいところでいただいた、松の木のかげで、散松葉の上で、石蕗の花の中で、大海を見おろして。
ごろごろ浜のごろごろ石、まるいまるい、波に磨かれ磨かれた石だ。
早いけれど、佐喜浜の素人宿ともいいたいような宿に泊った、浜はお祭、みんな騒いでいる、今夜も私は二杯傾けた! 一室一人で一燈を独占した、おかげで日記をだいぶ整理することが出来た。
行乞の功徳、昨日は銭四銭米四合、今日は銭二銭米五合、宿銭はどこでも木賃三十銭米五合代二十銭、米を持っていないと五十銭[#「五十銭」に傍点]払わなければならない。
行乞のむつかしさ、私はすっかり行乞の自信[#「行乞の自信」に傍点]をなくしてしまった、行乞はつらいかな、やるせないかな。
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(牟岐、長尾屋)  (甲ノ浦、三福屋)
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夜 菜葉、芋    菜葉
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塩鰯      煮魚
唐辛佃煮    菜漬
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朝 味噌汁     味噌汁
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×唐辛佃煮   ×菜漬
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菜漬
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(×印をお弁当に入れる)

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(十一月五日、室戸岬へ)
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おほらかにおしよせて白波
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ごろごろ浜
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水もころころ山から海へ
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銃後風景
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おぢいさんおばあさん炭を焼いてゐる
旅はほろほろ月が出た
旅のからだをぽりぽり掻いてゐる
病みて旅人いつもニンニクたべてゐる
[#こ
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