がある。
銭はなくてもゆとり[#「ゆとり」に傍点]がある!

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いろ/\さま/″\
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木賃宿は、多くの人は御飯四合[#「四合」に傍点]貰う(女は三合[#「三合」に傍点])、それを三度分にする人もあるし、二度で食べてしまう人も少くない、だいたい流浪者はお昼をぬかす二食が普通だ。
私は五合[#「五合」に傍点]食べる、大食の方だが、いつも三度に食べるのだから(お弁当を持って出るので)、あたりまえかも知れない、もっとも四国の宿の御飯は他の地方のそれよりも正確で、量が多いことは間違はない。

高知で眼についた看板二三――
安めし[#「安めし」に傍点]、これは適切だ、安宿[#「安宿」に傍点]も適切(木賃宿は普通だが、簡易宿、経済宿はかえっておもしろくない)、かん安売[#「かん安売」に傍点]、これはどうかと思う、かん[#「かん」に傍点]は棺である。
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 十一月十五日 秋晴、滞在。

早起、身心軽快、誰も愉快そうだ、私も愉快にならざるをえないではないか。
八時から十一時まで行乞、なぜだかいやでいやでたえがたくなって、河原に横ってお弁当を食べたり景色を観たりしても、気分がごまかせない、あちらこちらを無理に行乞して二時帰宿、一杯ひっかけた、財布に五銭、さんや[#「さんや」に傍線]に一合しかない、行こう行こう、明朝はどうでもこうでも出立しよう、絶食もよし、野宿もやむをえない、――放下着、こだわるな、こだわるな、とどこおりなく流れてゆく[#「とどこおりなく流れてゆく」に傍点]、――それが私の道ではないか!
今朝、同室のおへんろさん二人出立、西へ東へ、御機嫌よう、御縁があったらまた逢いましょう。
新客一人、野宿のお遍路さんらしい。
――水のように[#「水のように」に傍点]、雲のように[#「雲のように」に傍点]。――
今日の功徳は銭三十三銭、米五合也、食べて泊って、そして一杯ひっかけて、煙草も買ったので、残るところは……心細いといえば心細い、その心細さで明日からは野に臥し山で寝なければならないだろう、三度の食事もあまりあて[#「あて」に傍点]にはなるまい!

 十一月十六日 晴――曇、行程八里、越智町[#「越智町」に傍点]、野宿[#「野宿」に傍点]。

暗いうちに起きたが出発は七時ちかくなった、思いあきらめて松山へいそぐ、―
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