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十一月十日 晴、朝寒、行程八里、高知山西。
――よう降った、夜明けまで降りつづいたが、朝はからりと晴れわたって、星がさえざえと光っていた、――助かったと思う、幸福々々(宿もよかった、ほとんど申分なかった)。
七時出立、松原がよろしい、お弁当のおもいのもうれしかった、赤岡町まで二里半、途中行乞(功徳は銭七銭米六合)。
午後はひたすら高知へ強行した、申訳ないけれど、第二十八番、第二十九番は遥拝で許していただく、風が出て来たが、ほどなく凪いで、のどかな小春日和になった、御免からは路面舗装、身も心も軽い、思いかけなく、電車から降りた母子の方から拾銭玉を頂戴した(この十銭が私を野宿から助けてくれた!)。
いそいだけれど暮れて高知着、まず郵便局で郵便物を受取った、いろいろ受取ったけれど、期待したものはなかった、がっかりした、お札所横の山西屋に泊る、名を売っているだけ客扱もよく客人も多い、おいしい御飯をたべ風呂に入って、ぐったり寝た、アルコールなし。
米八合渡して(内五合は飯米)不足金二十銭払った。
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┌米八合渡 内五合は飯米┐
└金十三銭払 ┘
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(夕食) (朝食)
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焼魚 味噌汁二杯
菜葉ひたし 削節
沢庵漬 たくあん二片
さしみ 味噌汁二椀
蓮の煮付 菜葉の煮たの
漬物 漬物
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金がある時は金のない時を考えないけれど、金のない時は金のある時を考える、……私たちのようなものの痛いところだ。
かけだし夫婦[#「かけだし夫婦」に傍点]はすぐ解る! と宿の人々がいう、なるほど、そうだで。
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落日いろいろ[#「落日いろいろ」に傍点]
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大洋、都市、田園、山中。
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(十一月十日)
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墓地はしづかなおべんたうをひらく
梅干あざやかな飯粒ひかる
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行乞即事
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あなもたいなやお手手のお米こぼれます
まぶしくもわが入る山に日も入つた
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高知城
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お城晴れわたる蔦紅葉
銅像おごそか落つる葉もなく
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土佐路所
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