野にそそり立つ樫樹のような碧松君の堅実な歩調を尊敬する。そして折からの凩に嚔《くさめ》をしたり苦笑したりする破口栓君の心持に同情する。私は三君とりどりの態度に動かされた。私もまた私の一部を暴露したい。荒んで石塊のように硬張った私の感情を少しばかり披露したい。あの大道芸人が群衆の前にその醜い髯面をさらすように!
△私にも春があった。青い花を求め探した、黄ろい酒を飲み歩いた。赤い燃ゆるような唇を吸った。強烈なもの、斬新なもの、身も心も蕩けてしまうようなもの、熱愛する恋人を弄り殺して剖き取った肉のようなものを貪ぼった――実人生を芸術化しようとして悶え苦しんだ、悶え苦しんで何を得た? あゝたゞアルコール中毒!
△自己批評は三人の私生児を生んだ。自棄生活、隠遁生活、そして自己破壊。私はそのいずれと結婚したか。……
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深い穴がある。
冷たい風が吹く。
誰やら歩いてくる――
灰色の靄の奥から、
トボ/\と歩いてくる。
誰だ!
シツカリしろ!
ビク/\するな、
急げ、急げ、
愚図々々せずに急いで来い!
危ない、気を付けろ!
穴がある、
深い穴がある、暗い穴がある。
落ちるぞ、い
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