雑信(一)
種田山頭火

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)小《ち》さう

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)田螺|幸《さち》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]
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 新年句会には失敬しました、あれほど堅く約束していた事ですから、私自身は必ず出席するつもりでしたけれど、好事魔多しとやらで、飛んでもない邪魔が這入って、ああいうぐうたら[#「ぐうたら」に傍点]を仕出来しました、何とも彼とも言訳の申上様もありません、ただただ恐縮の外ありません、新年早※[#二の字点、1−2−22]ぐうたら[#「ぐうたら」に傍点]の発揮なんぞは自分で自分に愛想が尽きます、といったところで、ぐうたら[#「ぐうたら」に傍点]は何処まで行ってもぐうたら[#「ぐうたら」に傍点]、何時になってもぐうたら[#「ぐうたら」に傍点]で、それは私の皮膚の色が黒いのとおなじく、私の性であります、私自身さえ何うする事も出来ません、有体に白状しますれば私は我と我が身を持ち倦んでいるのです、丁度、気の弱い母親が駄々ッ児の独り息子を持て余していますように、
[#ここから2字下げ]
我に小《ち》さう籠るに耳は眼はなくも
   泥田の田螺|幸《さち》もあるらむ
[#ここで字下げ終わり]
 突然ですが、少しく事情があって当分の間、俳句、単に俳句のみならず一切の文芸に遠ざかりたいと思います、随って名残惜しくも、皆様と袖を分たねばなりません、今年は子の年ですから、仁木の鼠みたいに、また出直して来るつもりではありますが、一応お別れします、色々御厄介になりました、皆様、御機嫌よう。
[#ここから2字下げ]
毒ありて活く生命にや河豚汁
        一月十八日午前十時
             田螺公 謹んで申す
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き](椋鳥会五句集『河豚』明治四十五年一月)



底本:「山頭火随筆集」講談社文芸文庫、講談社
   2002(平成14)年7月10日第1刷発行
   2007(平成19)年2月5日第9刷発行
初出:「椋鳥会五句集『河豚』」
   1912(明治45)年1月
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年5月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
終わり
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