めて旧友M君を訪ねる、涙ぐましいほど歓待してくれた、奥さんもお嬢さんも、おばあさんまで出てきて、私の与多話を聞いて下さつた、十時近く、帰宿して熟睡。
同宿、いや、同室一人、誓願寺詣の老人、好きな好々爺だつた、いづれ不幸な人の一人だらう!
捨てた、今日の行乞で物事に拘泥する悪癖を捨てた、気持がたいへん楽になつた、もう一つ捨てたいものは、捨てなければならないものは酒の執着[#「酒の執着」に傍点]である(正しくいへば酒への未練)。
有縁止、無縁去、去来行住すべて水の如かれ、雲の如かれ。
おもひでの道を歩いて、善友悪友のおもひでがあつた、――K君、S君、I君、M君、等々等。
私はどこへいつても、招かれざる客[#「招かれざる客」に傍点]であつても拒まれる客[#「拒まれる客」に傍点]ではない、今日は歓迎せられた客でさへあつた。
秋草のうつくしさ、水草のうつくしさ。
ルンペン家族が、とある樹蔭で、親子四人でお辨当を食べてゐた、彼等に幸福あれ。
私の貧乏、そして私の安静、私の孤独、そして私の自由、不幸なる幸福[#「不幸なる幸福」に傍点]。
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今日の所得(銭十九銭 米二升四合)
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