し
・出来秋の四五軒だけのつく/\ぼうし
かたまつて曼珠沙華のいよ/\赤く
・大地にすわるすゝきのひかり
・あほむけ寝れば天井がない宿で
・ころもやふんどしや水のながれるまゝに
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或る友へのたより
昨日は雨中行乞をしましたが、やつと泊つて食べたゞけ、加茂鶴も亀齢も白牡丹もその煙突を観る[#「観る」に傍点]ばかりでした、今日は山もよかつたしお天気もよかつたし、行乞相も所得もよかつたし、三日ぶりに入浴もしたし、一杯やる余裕もあつたし、――まづこのあたりが山頭火相応の幸福でありませう!
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三風居
・街のひゞきも見おろして母子《オヤコ》の水入らずで
淡々居
・松に糸瓜も、生れてくる子を待つてをられる
阿弥坊居
・カンナもをはりの、秋がきてゐる花一つ
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十月二日[#「十月二日」に二重傍線]
十一月一日[#「十一月一日」に二重傍線]
行乞のつかれと酒の酔とでぐつすり寝た。
眼覚めたらすぐ起きるのが私の癖だ、起きたのは四時頃か、そこらを片付ける、さつぱりする、気持がいゝな。
緑平老の温情そのものであるカワセを受ける、そして買物また買物、買へるだけ買つた。
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火鉢 三十銭 五徳 八銭……
白米 四十八銭 酒 八十五銭……
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いそがしくてうれしい、うれしくていそがしい。
老来、人のなさけ[#「人のなさけ」に傍点]がわかる! 雑木紅葉がうつくしいな!
樹明来、つゞいて黎々火来、すべて予定の行動也。
酒あり下物あり、友あり火あり。
何ヶ月ぶりの魚か、その魚は鰯(十尾九銭だつた)。
樹明の酒八合、黎々火のカーネーシヨン六本。
いつしよに黎々火と寝る、フトンがないからでもある。
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今日の夜明けの星とぴつたり
稲刈日和の、道ばたのをとことをなごがむつかしい話
・柚子をもぐ朝雲の晴れてゆく
稲刈るそこををとこふたりにをなごがひとり(稲刈の写生也)
・秋日にかたむいてゐる墓場は坊さんの
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十一月二日[#「十一月二日」に二重傍線]
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・雨がおちるいそがしい籾と子供ら(農村風景の一つ)
笠は網代で、手にあるは酒徳利(酒買道中吟)
・月夜あるだけの米をとぐ
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十二月廿七日[#「十二月廿七日」に二重傍線]
何といふ落ちついた、そしてまた落ちつけない日だらう。
私は存在の世界[#「存在の世界」に傍点]に還つてきた、Sein の世界にふたゝびたどりついた、それはサトリの世界ではない、むしろアキラメの世界でもない、その世界を私の句が暗示するだらう、Sein の世界から Wissen(道徳[#「道徳」に傍点]の世界)の世界へ、そして 〔Mu:ssen〕(宗教[#「宗教」に傍点]の世界)の世界へ、そしてふたゝび Sein(芸術[#「芸術」に傍点]の世界)の世界へ。――
それは実在の世界だ、存在が実在となるとき、その世界は彼の真実の世界だ。
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十二月廿七日
死をまへに、やぶれたる足袋をぬぐ
(この句はどうだ、半分の私を打出してゐる)
・晴れてきてやたらに鴉なきさわぐ
ほろにがいお茶をすゝり一人である
・身にせまり人間のやうになきさわぐ鴉ども
冷飯が身にしみる今日で
・草もわたしも日の落ちるまへのしづかさ
追加一句
荷づくりたしかにおいしい餅だつた
・枯れた山に日があたりそれだけ
・死にたくも生きたくもない風が触れてゆく
・こゝにかうして私をおいてゐる冬夜
・独言でもいふほかはない熱が出てくる
・さびしうなりあつい湯にはいる
・こゝろむなしく風呂があふれるよ
・焚くだけの枯木はひろへて山が晴れてゐる
・人をおこらしてしまつて寒うをる(北朗君に)
・北朗作[#「北朗作」に傍点]るところの壺[#「壺」に傍点]に梅もどき[#「梅もどき」に傍点]あれ
庵中有暦日、偶成一句
・これがことしのをはりの一枚を剥ぐ
樹明君に
冬朝をやつてきて銭をおとした話
種田山頭火
第三句集 山行水行[#「山行水行」に白三角傍点]
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私は私自身について語りたい、Sein の世界について。
境涯の句、彼の生活が彼の句の詞書だ。
山行水行はサンコウスヰコウ[#「サンコウスヰコウ」に傍点]とも、サンギヨウスヰギヨウ[#「サンギヨウスヰギヨウ」に傍点]とも、どちらにても読んで下さい、私にはコウがギヨウだから[#「私にはコウがギヨウだから」に傍点]、――たゞ歩く、歩くために歩くのだけれど、それは自然発生的に修するのだから。
[#ここから
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