人々を感心させた(と自惚れる)。
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今日の所得(銭弐十弐銭、米二升一合)
            米はどこでも二十銭替
今晩の御馳走(焼魚、茄子の煮たの)
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・かあかあと鳴いたゞけで山の鴉は
 あえぎのぼる並木にはひでりのほこり
・こんなに子供があつてはだかではいまはる
・笠へ落葉の秋が来た
・なんでもない道がつゞいて曼珠沙華
・うらは蓮田できたなくてきやすい宿
・旅の夜空がはつきりといなびかりする
・ほんとうによい雨が裏藪の明ける音
・今日の陽もかたむいたひよろ/\松の木
   追加
・まんぢゆさけさきわたしの寝床はある(帰庵)
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 九月十四日[#「九月十四日」に二重傍線]

夜中に雨の音をきいた、朝空は曇つてゐるがなか/\降らない、宿の支度がおそくて出立もおくれた。
十時から一時まで高森町行乞、夕立がやつてきた。
二時から四時まで玖珂行乞、こゝでも夕立、よい夕立だつた。
心たいらか、行乞相も行乞所得も上上[#「上」に「マヽ」の注記]来、善哉、々々。
与へる人のいろ/\さま/″\が考へられる、三輪空寂は理想だ、せめて二輪空寂になりたい。
昼飯代りに柏餅五つ、五銭は安かつた、いはんや、新聞を読まして貰ひ、マツチを貰つたに於ておやである。
ありがたい雨だつた、草も木も人もよみがへつた、畑仕事をする人々が至るところに見られた。
欽明寺峠は峠としては何でもないが何しろ長い、秋草、虫声がよかつた、萩の老木は口惜しいほど欲しかつた。
師木野《シギノ》といふところ、鉄道工事風景が興味ふかゝつた。
夕雀、赤子の泣声、犬の吠えるのも旅のあはれだ。
しんせつなおばあさん、ふしんせつなおぢいさん。
路傍の荷馬車小屋で野宿の支度をしつゝあつたお遍路さんがていねいに挨拶した、私もねんごろに会釈した、彼の境遇を羨ましく感じるほどそれほど私はまだ私の生活に徹してゐない、恥づべきかな。
暮れて急いで道を間違へて、岩国の馴染の宿(昭和二年にも四年にも世話になつた)へ着いたのは八時頃だつたらう、地下足袋をぬぎ法衣をぬいで、やれ/\、「周東美人」を二、三杯ひつかける、どうも酒はうますぎますね。
木賃三十銭、中の上、または上の下とでもすべきか。
宿の主人夫妻がめつきり年をとつてゐる、娘がもう年頃になつてゐる。……
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