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十二月廿七日[#「十二月廿七日」に二重傍線]
何といふ落ちついた、そしてまた落ちつけない日だらう。
私は存在の世界[#「存在の世界」に傍点]に還つてきた、Sein の世界にふたゝびたどりついた、それはサトリの世界ではない、むしろアキラメの世界でもない、その世界を私の句が暗示するだらう、Sein の世界から Wissen(道徳[#「道徳」に傍点]の世界)の世界へ、そして 〔Mu:ssen〕(宗教[#「宗教」に傍点]の世界)の世界へ、そしてふたゝび Sein(芸術[#「芸術」に傍点]の世界)の世界へ。――
それは実在の世界だ、存在が実在となるとき、その世界は彼の真実の世界だ。
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十二月廿七日
死をまへに、やぶれたる足袋をぬぐ
(この句はどうだ、半分の私を打出してゐる)
・晴れてきてやたらに鴉なきさわぐ
ほろにがいお茶をすゝり一人である
・身にせまり人間のやうになきさわぐ鴉ども
冷飯が身にしみる今日で
・草もわたしも日の落ちるまへのしづかさ
追加一句
荷づくりたしかにおいしい餅だつた
・枯れた山に日があたりそれだけ
・死にたくも生きたくもない風が触れてゆく
・こゝにかうして私をおいてゐる冬夜
・独言でもいふほかはない熱が出てくる
・さびしうなりあつい湯にはいる
・こゝろむなしく風呂があふれるよ
・焚くだけの枯木はひろへて山が晴れてゐる
・人をおこらしてしまつて寒うをる(北朗君に)
・北朗作[#「北朗作」に傍点]るところの壺[#「壺」に傍点]に梅もどき[#「梅もどき」に傍点]あれ
庵中有暦日、偶成一句
・これがことしのをはりの一枚を剥ぐ
樹明君に
冬朝をやつてきて銭をおとした話
種田山頭火
第三句集 山行水行[#「山行水行」に白三角傍点]
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私は私自身について語りたい、Sein の世界について。
境涯の句、彼の生活が彼の句の詞書だ。
山行水行はサンコウスヰコウ[#「サンコウスヰコウ」に傍点]とも、サンギヨウスヰギヨウ[#「サンギヨウスヰギヨウ」に傍点]とも、どちらにても読んで下さい、私にはコウがギヨウだから[#「私にはコウがギヨウだから」に傍点]、――たゞ歩く、歩くために歩くのだけれど、それは自然発生的に修するのだから。
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