夕立がやつてきた、濡れて歩く、あんまり降るから、とある農家に雨やどりして、そこの老人と世間話をする、誰もが話すやうに不景気々々々。
十二時すぎにはもう敬治居にくつろぐことができた、敬君は御馳走こしらへにいそがしく、私は風呂水をくむ、奥さんも子供さんも留守だから、まるで其中庵の延長――物資の豊富はいはない――みたいなものだつた。
うまい酒(一週間ぶりの酒だ)うまい飯(敬君炊ぐところの)を腹いつぱい詰め込んだ。
大夕立、まことに大雨大雷だつた、これで二人の憂欝は流れ去つてしまつた。
敬君が跣足で尻端折で畠の草を取る、私は寝ころんで新聞を読む、ユカイ/\。
法衣の洗濯、一年ぶりの垢を洗つた、敬君に理髪して貰ふ、さつぱりした。
夜はまた酒、敬君は腹痛で注射をしてもらつたりしたが、私はぐつすり寝ることができた。
とにかくたのしい日であり夜であつた。
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・みちは露草のつゝましい朝明け
 さかのぼる水底の秋となつてゐる
 小亀がういて秋暑い水をわたる
 旅の法衣のはらへどもおちないほこり
 つくり酒屋の柳いよ/\青し
・けふのおひるは草にすわつてトマトふたつ
 昼寝のびやかだつ
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