はすつかり秋だつた。
七時から嘉川在を行乞したが、何分にも心臓がわるくて気分がすぐれない、無理に二時間ばかり家から家へと歩いて、今日明日食べるだけのお米を頂戴して帰庵した。
曼珠沙華が一輪、路傍の叢に咲き出てゐた、折つて戻つて、机上に飾つてゐたら、油虫が食べてしまつた。
△死生から脱することは出来ないが、死生に囚はれないことは出来る、宗教的修行の意義はこゝにある。
△行乞してゐると、村の餓鬼君がホイトウホイトウといふ、いつぞや敬治居に泊つたとき、坊ちやんが、「おぢさんはホイトウかの」といつて私達を微苦笑させたが、ホイトウはおもしろいな!
午後、夕立があつた、落雷もあつたらしい。
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・青田おだやかな風が尾花のゆるゝほど
・秋暑く何を考へてゐる
・こゝにも家が建てられつゝ秋日和
・何もかも虫干してある青田風
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 八月廿四日[#「八月廿四日」に二重傍線]

秋、秋、秋寒く秋暑し、夜は秋にして昼は夏なり。
気分すぐれず、身心の倦怠いかんともしがたし、行乞もやめて終日独居、ぼんやりして一句もなし。
明日の糧は明日に任さう[#「明日の糧は明日に任さう
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