んだり汚れ物を洗つたりしてゐると、果して敬坊来車、酒を持つて、間もなく樹明も来車、茹鮹を下げて。
月がよい、昨夜もよかつたが今夜は一層よい、月あり酒あり[#「月あり酒あり」に傍点]、友あり寝床あり[#「友あり寝床あり」に傍点]。……
二人をよい月へ見送つて、よい月へごろりと寝る。
[#ここから2字下げ]
・鳴るは風鈴、この山里も住みなれて
・伸びあがつて炎天の花
・はぶさう葉をとぢてゐる満月のひかり
・すずしい月へふたりを見おくる
・子のことも考へないではない雲の峰がくづれた
・灯して親しいお隣がある(改作)
・親子でかついでたなばたの竹
・風は裏藪から笠と法衣と錫杖と
・暑い土のぽろ/\こぼれるをくだる
・葉かげふかくうもれてゐる実があつた
・据えた石もおちついてくる山をうしろに
・炎天の枯木よう折れる
・真昼を煮えてゐるものに蝉しぐれ
・このうまさは山の奥からもらつてきた米
・風鈴の音のたえずして蝉のなくことも
[#ここで字下げ終わり]
八月七日[#「八月七日」に二重傍線]
すこし飲みすぎですこし朝寝、しかし天地明朗である、夏の日[#「夏の日」に傍点]を感じる。
今日は七夕、当地の河原はたいへん賑ふといふ、郵便局へ出かけたが、街は青竹のうつくしさで埋められてゐる、晩には煙火見物に出かけるかな。
夫婦で棚機竹をかついだり、家内惣[#「惣」に「マヽ」の注記]動員で色紙飾紙を竹にとりつけてゐる、七夕祭は女性的だが、たしかに東洋的な日本らしい情調を帯びてゐる。
うつくしいかな、なつかしいかな、大和撫子、常夏の花。
いぬころ草を活けて、これもをはりのよさを味ふ。
糸瓜がちいさくぶらりとさがつてきた。
巡査来、戸籍調べらしい、飛行機来、一句くれていつた、冀くは今夜も敬坊来、樹明来、南無アルコール大明神来!
茄子がうまかつた、漬菜がほんとうにうまかつた。
街の七夕夜景を見物して歩いた、提灯のほかげはまつたくうつくしい、親しみふかい日本美観である、なまじ近代風を加味したのはかへつて面白くない、それから河原へ行つた、たいへんな人出だ、果物店、氷店の羅列である、久しぶりに夜店風景を満喫した。
月がよかつた、風も涼しかつた、煙火のポン/\もうれしかつた。
人形芝居の催しがあつた、やたらに人形が動く、どこら[#「ら」に「マヽ」の注記]そこらで蛙が鳴いてゐた。
街の人ごみの中で、今
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