る
すこし白んできた空から青柿
青葉ふみわけてきてこの水のいろ
・蚊帳をふきまくる風の暮れると観てゐる
・すつかり暮れた障子をしめて寝る
・よるの青葉をぬけてきこえる声はジヤズ
・きりぎりすも更けたらしい風が出た
・なんぼたゝいてもあけてやらないぞ灯取虫
・落ちたは柿か寝苦しい夜や
・死ぬる声の蝉の夜風が吹きだした
・あちらで鳴くよりこちらでも鳴く夜の雨蛙
□
・空のふかさは木が茂り蜘蛛の網張るゆふべ
・とんぼつるんで風のある空
追加
・あの山こえて雷鳴が私もこえる
[#ここで字下げ終わり]
七月廿三日[#「七月廿三日」に二重傍線]
昨夜も寝苦しかつた、それは暑いためばかりではなかつた。
せつかくよう出来てゐた茄子に虫がついて、しだいに弱つてきた、どんな手当をしてよいか解らないので、灰をふりかけてやつた。
味噌も醤油もなくなつてしまつた、むろん銭はない、今日は蕗、紫蘇、らつきよう、梅干、唐辛、[#「辛、」に「マヽ」の注記]焼塩、――そんなものばかり食べた、何といつてもまだ米があるから、そして塩だけはあるから有難い、飯ばかりの飯[#「飯ばかりの飯」に傍点]、いや空気[#「空気」に傍点]を食べてさへすましたこともあるのだから。
もろ/\の虫、いろ/\の草、さても其中庵はにぎやかである。
禅海さんからハガキが来たが、私製ハガキの規定通りになつてゐないものだから、不足税を三銭徴収された、やつと五厘銅貨で納めたが。
くもり、ばら/\雨、トマトのい[#「い」に「マヽ」の注記]つくしい色を食べる(じつさいうれたトマトの肌はうつくしい)。
[#ここから2字下げ]
・糸瓜やうやく花つけてくれた朝ぐもり
をのれにひそむや藪蚊にくんだりあはれんだりして
・蝉時雨もう枯れる草がある
・昼しづかな焼茄子も焼けたにほひ
・けふまでは生きてきたへそをなでつつ
・はひまはつた虫は見つけた穴にはいつた
・へちまよ空へのぼらうとする
[#ここで字下げ終わり]
七月廿四日[#「七月廿四日」に二重傍線]
ようねむれた、行乞すべく早う起きたが、ばら/\降つて風模様なので見合せる。
一円ばかり欲しいな、と思ふと同時に、蝉の声はよいな、とも思ふ。
天地うるほひあり、といつたやうな感じ。
自然荘厳[#「自然荘厳」に傍点]――自然浄土[#「自然浄土」に傍点]である。
△梅干のうまさよ
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