雑草」に傍点]も借りた、いや御苦労々々々。
夜おそくまで蚊帳の中で読んだり考へたり、なか/\寝つかれなかつた。――
△句作道程の段階(感動をうたふこと、それが詩であるとして)
[#ここから1字下げ]
説く――述べる[#「述べる」に傍点]――写す――描く[#「描く」に傍点]――表現する[#「表現する」に傍点]。
のべる[#「のべる」に傍点](叙景の叙[#「叙」に傍点]であり、抒情の抒[#「抒」に傍点]である、のべる[#「のべる」に傍点]ことがゑがく[#「ゑがく」に傍点]こととなる)、境地、風格、一家を成す、堂奥に入る。――
[#ここで字下げ終わり]
今日は近来にない濫作駄作だつた、これではまるで俳句製造者だ、警戒々々、自重々々、駄作千句よりも佳作一句だ。
[#ここから2字下げ]
咲いておもたく白さ赤さのもつれてはゆれ
・朝蝉やよいたよりうけとつて出かける
・朝ぐもりの落ちる葉にてふてふ
・炎天へ枯れさうもない草のむしられても
・かぼちやおほきく咲いてひらいておばあさんの顔
(対句――おぢいさんも山ゆきすがたの高声でゆく)
今日の冬村君に一句
・だまつて考へない金網を織りつづける
・畑いつか田になつた稲のそよいでゐる
・まだかきをきをかきをえてゐない腹のいたみをおさへ
梅雨ぐもり、見たことのある顔がくる
花草にしやがんだ女で銭のやりとり
・青田のまんなかを新国道はまつすぐな旗立てて
・ひえ/″\とからだをのばし蛇もうごかない
・庭も畑も草のしげりゆく草
[#ここで字下げ終わり]
七月七日[#「七月七日」に二重傍線]
何だか不安な一夜だつた、そして朝飯の仕度はすつかり出来たのにまだ夜が明けない、また蚊帳にはいつてとろ/\まどろんだ。――
鋳銭司まで出かける、今月最初の行乞であるが、何分にも睡眠不足と※[#「气<慍のつくり」、第3水準1−86−48]気とで苦しくてしようがない、それをこらへて二時間だけやつと行乞、それでも今日一日の生命を保つには十分すぎるほど戴いた。
徃きは涼しかつたが、返りはとても暑かつた、道ばたの木槿が咲いてゐた。
行乞は身心晴朗でなければならない[#「行乞は身心晴朗でなければならない」に傍点]、足もかろく気もかろくなければならない、そしておちつき[#「おちつき」に傍点]がなければならない、すなほさ[#「すなほさ」に傍点]がなければならない。
暑さは植物にもこたえる、山東菜が芽ぶいたことは芽ふいたが、春のやうに成長しない。
雷電、雷鳴、これで梅雨もあがるのだらう、今日から盛夏。
夕立が晴れて、やりきれなくて街へ出かける、わざ/\出かけてやうやく一杯だ、だがその一杯は百杯万杯に値する、ほんにわたしは酒好きで、酒好きは酒飲む外ない!
酒一杯ひつかけて、そして、花と句とをひらうてもどつた。
樹明君から、キヤベツとキユウリとを送つてきた、明日のために、明日は緑平来、そして白船来の日である。
しづかな、ほんとうにしづかなゆふべであつた。
△いのちのよろこびはしづけさ、しめやかさにあると思ふ。
今宵は十五夜である、月がうつくしかつた、昼寝したゝめに、そして多少興奮してゐるために、いつまでもねむれなかつた。
今日も私は俳句屋[#「俳句屋」に傍点]だつた(午前は乞食坊主だつたが)。
[#ここから2字下げ]
・楊桃《ヤマモモ》は枝ながら実家《サト》のおみやげに
・これで昼飯にしよう青田風
・日ざかりのきりぎりすは鳴きかはし
・橋の日かげへ女ばかりのボートで
うらみちは夏草が通れなくしたまんま
・もどるより水を火を今日の米をたき
・黴だらけの身のまはりをあらうてはあらふ
・田草とるしたしさもわかいめをとで
・まへもうしろも耕やす声の青葉
いなびかり畑うつ音のいそがしく
・かみなりうつりゆく山のふかみどり
夕立たうとして草は木は蝶もとばない
・雨はれた若竹にとんぼが来てゐる
・雨のいろの草から草へてふてふ
・暮れきらない空は蜘蛛のいとなみ
・街へ出かける夕立水のあふれてゐる
・蓮田いつぱいの蓮の葉となつてゐる夕立晴
・夕立晴の花をたづねてあるく
つきあたりはガソリンタンの[#「ンの」に「マヽ」の注記]うつくしいペンキの模様
・夕立が洗つていつた月がまともで
寝て月を観る蚊帳の中から
[#ここで字下げ終わり]
何となく、不安、動揺、焦燥、憂欝――身心の変調を感じる、その徴候の一つとして連夜の不眠がある、また行乞の旅に出る外あるまい。
清閑、自適、任運、孤高――さういふところへ私の心はうごいてきて、そしてその幾分かをあたへられてゐるのであるが、私はさらにうごいてゆかなければならない、うごきつゝある、うごかずにはゐられないのである。……
七月八日[#「七月八日」に二重傍線]
晴、緑平老を迎へる日である、待つ
前へ
次へ
全8ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング