てゐる。
まだ蚊帳なしで寝られたのはよかつた、蚤の多いのには閉口した、古いキングを読んだり隣家のレコードの唄を聞いたり、――これもボクチン情調だ。
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 朝風すゞしく馬糞を拾ふ人と犬
・山里をのぼりきて捨猫二匹
 捨てられて仔猫が白いの黒いの
・夏草の、いつ道をまちがへた
・虫なくほとりころがつてゐる壺
・道がなくなればたたへてゐる水
・これからまた峠路となるほとゝぎす
・ほとゝぎすあすはあの山こえてゆかう
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 六月廿一日[#「六月廿一日」に二重傍線]

習慣で早く眼が覚めたが起きずにゐた、梅雨空らしく曇つて、霧雨がふつてゐた。
七時出立、すぐ行乞をはじめる、憂欝と疲労とをチヤンポンにしたやうな気分である。
時々乞食根性、といふよりも酒飲根性が出て困つた、乞ふことは嫌だが飲むことは好きだ。
ひさ/″\で、飯ばかりの飯[#「飯ばかりの飯」に傍点]をかみしめた、そのうまさは水のうまさだ、味はひつくせぬ味[#「味はひつくせぬ味」に傍点]はひだ。
本降りとなつたが、わざと濡れて歩きつゞけた、厚東駅まで八里、六時の汽車に乗つた。
山頭火には其中庵がある、そこは彼にとつて唯一の安楽郷だ!
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  今日の行乞所得
米一升六合 銭四十一銭
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途上一杯の酒、それこそまさに甘露!
汽車は便利以外の何物でもない、自動車は外道車だ!
足で歩くにまさるものなし、からだで歩け[#「からだで歩け」に傍点]。
今日の汽車賃三十銭は惜しかつた。
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・寝ころべば筍も生えてゐる
・山鶯も山頭火も年がよりました
・梅雨空をキヤルメラふいてきたのは鮮人
・水の音、飯ばかりの飯をかむ
・おばあさんが自慢する水があふれる
・いつかここでべんたうたべた萱の穂よ
・笠きて簑きて早乙女に唄なく
・笠をぬぎしつとりと濡れ
・ふるもぬれるも旅から旅で
・禿山しみじみ雨がふるよ
・合羽きるほどはふらない旅の雨ふる
・青葉に雨ふりまあるい顔
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[#改ページ]

 六月廿一日[#「六月廿一日」に二重傍線]

暮れきるまへに帰庵した、さつそく御飯を炊く、筍をひきぬいてきて煮る、掃く、拭く。……
安心満腹、前後不覚、よい雨の夜のよい眠だつた。

 六月廿二日[#「六月廿二日」に二重傍線] 夏至。

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