送電塔が青葉ふかくも澄んだ空
やつと芽がでたこれこそ大根
すずめおどるやたんぽぽちるや
暮れてつかれてそらまめの花とな
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六月十九日[#「六月十九日」に二重傍線]
ずゐぶん早く起きた、暁天の蛙声はよかつた、ほつかりと朝月があつて空梅雨、何となくニヒリスチツクな風景。
行乞は気分がふさぐから止めにして庵中閑打坐。
すこし梅雨らしく曇つては見せるが、なか/\降つてくれない。
△食べる事[#「食べる事」に傍点]、そして寝る事[#「寝る事」に傍点]をのぞいて、他に何事が私に残つてゐるか!
Jさんが唐辛を持つてきてくれた、何よりの贈物だ。
一杯やりたい慾望、性慾のなくなつた安静。
私の生活もいよ/\単純、簡素、枯淡になつた、これで追想や空想や妄想がなくなると申分ないのだが。
蚯蚓のやうに、土のやすけさを味へ。
野菜に水をやる、雨――自然の偉大を考へさせられる、今更のやうに。
夜、樹明君が袖に螢を一匹つけて来た、どうしても来ずにはゐられないから来たといふ、何といふうれしい言葉だらう。
きりぎりすが鳴きはじめた。
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・朝露しとゞ、行きたい方へ
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