つてゐた。
若葉がくれの伯母の家、病める伯母を見舞ふことも出来ない甥は呪はれてあれ。
私を見つめてゐた子供が溝に落ちた、あぶない。
暑い風景である。
おもひでははてしなくつゞく。
宮市……うぶすなのお天神様!
肖像画家S夫妻に出くわした、此節は懐工合よろしいらしく、セル、紋付、そして人絹!
富海で、久しぶりに海のよさをきく[#「きく」に傍点]。
大道、宮市、富海――あれこれとおもひでは切れないテープのやうだよ。
お宮の松風の中で昼食、一杯やりたいな。
転身の一路がほしい。
富海行乞、戸田行乞、二時間あまり。
さりとは、さりとは、行乞はつらいね!
S君の家はとりこぼたれてゐた、S君よ、なげくな、しつかりやつてくれ。
自動車、それは乗客には、そして歩くものにはまさに外道車!
旧道はよろしいかな、山の色がうつくしくて、水がうまくて。
今、電話がかゝつてゐるから、行乞の声をやめてくれといふ家もあつた、笑止とはこれ。
一銭から一銭、一握の米から一握の米。
暮れて徳山へついた。
徳山は伸びゆく街だ。
白船居では例のごとし、酒、飯、そしてまた酒。
雑草句会に雑草のハツラツ味がないのはさみしかつた、若
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