づかにしてあそぶをんな
つたうてきては電線の雨しづくしては
警察署の木の実のうれてくる
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五月十六日[#「五月十六日」に二重傍線]
まだ降つてゐる、残酒残肴を飲んで食べる、うまい/\、そしてM氏のために悪筆を揮ふ。
朝酒は身心にしみわたる、酔うて別れる、誠二さんはすでに出勤、書置を残して、そして周東美人[#「周東美人」に傍点]を連れて!
宿の奥さん、仕出屋の内儀さんの深切に厚くお礼を申上げる。
雨、雨、雨、ふる、ふる、ふる、その中を歩く、持つてきた一本を喇叭飲みする、酔ひつぶれて動けなくなつた、松原に寝ころんでゐたら、通行人が心配して、どうかなさいましたかといふ、まことに恥晒しだつた。
工合よく、近くに安宿があつたのでころげこむ、宿銭がないから(酒と煙草とは貰つてきたのがありあまるほどあるけれど)、すまないと思ひつゝ、誠二さんへ手紙を書いて、近所の子供に持たせてやつた。
誠二さんの返事はありがたかつた、すまない/\、人々に酒と煙草とを御馳走する。
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・松風のみちがみちびいて大師堂
・夏めいた雨がそゝぐや木の実の青さや
雨音のしたしさの酔うてくる
これからどこをあるかう雨がふりだした
ずんぶりぬれて青葉のわたし
室積松原の宿
木賃料 三十銭
米五合 十一銭
中ノ上といふところ、
飯が少ない、
すこしうるさい、
今日の行乞所得
米 八合
銭 九銭
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五月十七日[#「五月十七日」に二重傍線]
霧雨、ぼうとして海も山も見えない。
松原の宿[#「松原の宿」に傍点]といふ気分はよかつた。
早朝、合羽を着て出立、島田を経て呼坂へ、そして勝間へ、行程六里。
薊が咲きつゞいてゐた、要の若葉が美しかつた。
呼坂の附近を行乞壱時間。
旧友井生君を訪ねて旧情を温めた、十年振の再会、話しても話しても話しつきない、君のよさに触れてうれしかつた。
君の祖父君は風雅人だつたといふ、さすがに家構も庭園も調度も趣味的に整頓してゐる。
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・霧雨のしつとりと松も私も
茨がもう咲いてゐる濁つた水
・ふつたりやんだりあざみのはなだらけ
・あやめあざやかな水をのまう
なにがなしラヂオに雑音のまじるさへ
・晴れさうな水が湧いてゐる
・うごいて蓑虫だつたよ
やうや
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