人、女性を見分したのは白船老のおかげ、感謝、感謝。
白船居の夢はおだやかだ、おだやかでなければならない。
白船老いたり、たしかに老いたり。
けふいちにちはあるきつゞけた、十里強。
行乞はつらいね。
可愛い子には遍路をさせろ。
行乞は他を知り同時に自を知る。
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月見草もおもひでの花をひらき
・春まつりの、赤いゆもじで乳母車押してきた
・春もゆくふるさとの街を通りぬける
・はぎとる芝生が春の草
・かきつばた咲かしてながれる水のあふれる
五月晴、お地蔵さんの首があたらしい
松蝉があたまのうへで波音をまへ
たちよればしづくする若葉
・夏山のトンネルからなんとながいながい汽車
・踏切も三角畑の花ざかり
・竹の子みんな竹にして住んでゐる
はるかに墓が見える椎の若葉も
・松並木ゆくほどに朝の太陽
・こゝでやすまう月草ひらいてゐる(大道)
・音もなつかしいながれをわたる(佐波川)
・ふるさとの山はかすんでかさなつて(宮市)
・水にそうてふるさとをはなれた
・誰もゐない蕗の葉になつてゐる
・線路がひかるヤレコノドツコイシヨ
・春はゆく鉢の子持つてどこまでも
・こゝは水の澄むところ藤の咲くところ
・埃まみれで芽ぶいてゐる
[#ここで字下げ終わり]
五月十四日[#「五月十四日」に二重傍線]
とろ/\まどろんですぐ起きた、そして街から浜を歩いた。
晴は晴だが、時々曇、雨が近いことはたしかだ。
朝から酒、朝酒はうまいこともうまいがこたへることもこたへる。
漣月老を久しぶりに訪ねて、勢のよい君を祝し喜んだ。
九時近くなつて出立、櫛ヶ浜行乞、それから下松、虹ヶ浜、そして室積――六里の道が六十里にも感じられた、何しろ過飲と不眠とのために、さすがの私も今日ばかりは弱つてしまつた。
米はあまり重いから、途中の安宿に預けたが、それだけでも大に助かつた。
室積は普賢市なので、帰る人がぞろ/\ぞろ/\、その場を自動車、自動車、自動車、何もかも埃まみれだ。
多少脚気の気味がある、旅で死んでは困る、私は困らないけれど、周囲の人々が困るから。
暮れるまゝに、やつとせい二居に着いた、学校まで行かないうちに、或る人に偶然教へられて尋ねあてたのはよかつた。
熱い風呂にはいつてさつぱりした、それから酒となつたのは自然で当然で必然だ、おそくまで、酒、鮹、酒、鮹。
やはらかな寝床、やすら
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