貨幣は勤労の表徴[#「勤労の表徴」に傍点]として尊いのである、物の価値は物そのものにある[#「物の価値は物そのものにある」に傍点]。
今日といふ今日は、私として、最も有効に金を遣つたと思ふ。
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・働らき働らき牛を叱つて
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数日たまつてゐた返事を書いてだしたので、ほつとした、はがき十枚、手紙弐通。
五日ぶりに酒を飲んだが、あんまりうまくなかつた、うれしいやうでもあり、さびしいやうでもある、とにかく酒を清算することが私を清算することの第一歩であることはたしかだ。
久しぶりに、ほんたうに久しぶりに、今夜は水を飲んだ、うまくない水である、だいたい、川棚といふところは水がよくない、飲める井戸は数ヶ所しかない、これからは谷川の水を飲まう、水は私を清浄にする、私の生活から、むしろ、私の心から水をとりのぞけば、私はきたなくなるばかりだ。
六月十七日 同前。
梅雨日和、終日読書、さうする外ないから。
アイバチといふ魚を買つた、十銭、うまくていやみがなかつた(ナマクサイモノを食べたのは、何日目だつたかな)、そしてうどん玉二つ、五銭、これもおいしかつた、今晩は近来の御馳走だつた。
このあたりも、ぼつ/\田植[#「田植」に傍点]がはじまつた、二三人で唄もうたはないで植ゑてゐる、田植は農家の年中行事のうちで、最も日本的であり、田園趣味を発揮するものであるが、此頃の田植は何といふさびしいことだらう、私は少年の頃、田植の御馳走――煮〆や小豆飯や――を思ひだして、少々センチにならざるを得なかつた、早乙女のよさも永久に見られないのだらうか。
お隣の蓄音器がまたうたひだした、浪花節、肉弾三勇士のなかの、赤い夕日に照らされて、の唄にはほろりとした、あのうたはたしかに我々の心にひゞく、大和民族の血潮を沸き立たせるものを持つてゐる、私にはヂヤズよりも快感を与へる。
土地借入には当村在住の保證人二名をこしらへなければならないので、嫌々ながら、自己吹聴をやり自己保證をやつてゐるのだが、さてどれだけの効果があるかはあぶないものだ、本人が本人の事をいふほどアテになるものはなく同時にアテにならないものもない。
一も金、二も金、三もまた金だ、金の力は知りすぎるほど知つてゐるが、かうして世間的交渉をつづけてゐると、金の力をあまり知りすぎる!
私の生活は――と今日も私は考へた――搾取[#「搾取」に傍点]といふよりも詐取[#「詐取」に傍点]だ、いかにも殊勝らしく、或る時は坊主らしく、或る時は俳人らしくカムフラーヂユして余命を貪つてゐるのではないか。
法衣を脱ぎ捨てゝしまへ、俳句の話なんかやめてしまへよ。
それにしても、やつぱりさみしい、さみしいですよ。
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さみしいからだをずんぶり浸けた
・水田青空に植ゑつけてゆく
人の声して山の青さよ
・一人で黙つて植ゑてゐる
夏草いちめんの、花も葉も刈り
・とう/\道がなくなつた茂り
・ひとりきてきつゝき(啄木鳥)
・こゝの土とならうお寺のふくろう
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六月十八日 同前。
快晴、梅雨季には珍らしいお天気でもあるし、ちようど観音日でもあるので、狗留孫山へ拝登、往復六里、山のよさ、水のうまさを久しぶりに味つた。
道を間違へて、半里ばかり岨路を歩いたのは、かへつてうれしかつた、岩に口づけて腹いつぱい飲んだ水、そのあたりいちめんにたゞようてゐる山気、それを胸いつぱい吸ひこんだ、身心がせいせいした。
狗留孫山修禅寺、さすがに名刹だけあるが、参詣者が多いだけそれだけ俗化してゐる、参道の杉並木、山門の草葺、四面を囲む青葉若葉のあざやかさ、水のうつくしさ、――それは長く私の印象として残るだらう。
田植を見て『土落し』を思ひだした、それは私が少年時代、郷里の農家に於ける年中行事の一つであつた、一日休んで田植の泥を落すのである、何といふ、なつかしい思出だらう。
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・朝戸あけるより親燕
・こゝもそこもどくだみの花ざかり
・水田たゝへようとするかきつばたのかげ
・梅雨晴れの山がちゞまり青田がかさなり
・つゝましくこゝにも咲いてげんのしようこ
□
・お寺まで一すぢのみち踏みしめた
・うまい水の流れるところ花うつぎ
・山薊いちりんの風がでた
・水のほとり石をつみかさねては(賽の河原)
霽れて暑い石仏ならんでおはす
夏草おしわけてくるバスで
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昨日も今日もまたサケナシデー、すこし切ない。
近頃、ひとりごと[#「ひとりごと」に傍点]をいふやうになつた、年齢の加減か、独居のせいか、何とかいふ支那の禅師の話を思ひだしておかしかつたり、くやしかつたりしたことである。
六月十九日 同前。
曇、時々照る、歩けば暑い、汗が出
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