がフクイクとしてにほふだらう、これもまた貧楽[#「貧楽」に傍点]の一つ。――
怪我をするときは畳の上でもするといふ、まつたくさうだ、今朝、私は縁側でしたゝか向脛をうつた、痛い、痛い。
こゝの息子さんと土用鰻釣に出かける約束をしたので、釣竿を盗伐すべく山林を歩いてゐると、仏罰覿面、踏抜をした、こん/\と血が流れる、真赤な血だ、美しい血だ、傷敗けをしない私は悠々として手頃の竹を一本切つた、いかにも釣れさうな竿だ、しかし私は盗みを好かない、随つて盗みの罰を受け易い、どうも盗みの興味が解らない。
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・押売が村から村へ雲の峰
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七月廿六日
相かはらず暑い、夕立がやつて来さうでなか/\やつて来ない、草も木も人もあえいでゐる。
約束通り、こゝの息子さんと溜池へ釣りに行く、鰻は釣れないで鮒が釣れた、何と薄倖な鮒だつたらう、せい/″\三時間位だつたが、ずゐぶんくたぶれた。
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・朝から暑い野の花をさがしあるく
・すゝき活けて誰かを待つてゐる
・蟻や蝉やいちにち孫を遊ばせる
□
・水底の雲から釣りあげた
・赤い夕日に釣つてやめようともしない
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七月廿七日
今日は土曜[#「曜」に「マヽ」の注記]の丑の日。
鰻どころか、一句もない一日だつた!
だが、夕方になつて隣室から客人から、蒲焼一片を頂戴した。
まことに鰻ひときれの丑の日だつた!
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・暑さ、泣く子供泣くだけ泣かせて
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だから、駄句一つの一日でもあつた!
七月廿八日
晴、風がすが/\しい、そして何となく雨の近い感じがする、今日はきつとよいたよりがあるだらう。
よいたよりといへば、昨日うけとつたたよりはうれしいものであつた、緑平老からのたよりもうれしかつたが、幸雄さんからのそれは殊にうれしかつた、それは温情と好意とにあふれてゐた。
頭痛がする、頑健そのものゝやうな私も暑さと貧しさとでだいぶ弱つたらしい、だがまゐつたのぢやない。
野百合と野撫子とを活けた、百合はうつくしい、撫子は村娘野嬢のやうな風情でなくて(百合のやうに)深山少女といつた情趣である、好きな花だ、一目何でもないけれど、見てゐるとたまらなくよいところがある、西洋撫子はとても/\だ。
正さん――この宿の次男で、私の新らし
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