へた――搾取[#「搾取」に傍点]といふよりも詐取[#「詐取」に傍点]だ、いかにも殊勝らしく、或る時は坊主らしく、或る時は俳人らしくカムフラーヂユして余命を貪つてゐるのではないか。
法衣を脱ぎ捨てゝしまへ、俳句の話なんかやめてしまへよ。
それにしても、やつぱりさみしい、さみしいですよ。
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 さみしいからだをずんぶり浸けた
・水田青空に植ゑつけてゆく
 人の声して山の青さよ
・一人で黙つて植ゑてゐる
 夏草いちめんの、花も葉も刈り
・とう/\道がなくなつた茂り
・ひとりきてきつゝき(啄木鳥)
・こゝの土とならうお寺のふくろう
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 六月十八日 同前。

快晴、梅雨季には珍らしいお天気でもあるし、ちようど観音日でもあるので、狗留孫山へ拝登、往復六里、山のよさ、水のうまさを久しぶりに味つた。
道を間違へて、半里ばかり岨路を歩いたのは、かへつてうれしかつた、岩に口づけて腹いつぱい飲んだ水、そのあたりいちめんにたゞようてゐる山気、それを胸いつぱい吸ひこんだ、身心がせいせいした。
狗留孫山修禅寺、さすがに名刹だけあるが、参詣者が多いだけそれだけ俗化してゐる、参道の杉並木、山門の草葺、四面を囲む青葉若葉のあざやかさ、水のうつくしさ、――それは長く私の印象として残るだらう。
田植を見て『土落し』を思ひだした、それは私が少年時代、郷里の農家に於ける年中行事の一つであつた、一日休んで田植の泥を落すのである、何といふ、なつかしい思出だらう。
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・朝戸あけるより親燕
・こゝもそこもどくだみの花ざかり
・水田たゝへようとするかきつばたのかげ
・梅雨晴れの山がちゞまり青田がかさなり
・つゝましくこゝにも咲いてげんのしようこ
    □
・お寺まで一すぢのみち踏みしめた
・うまい水の流れるところ花うつぎ
・山薊いちりんの風がでた
・水のほとり石をつみかさねては(賽の河原)
 霽れて暑い石仏ならんでおはす
 夏草おしわけてくるバスで
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昨日も今日もまたサケナシデー、すこし切ない。
近頃、ひとりごと[#「ひとりごと」に傍点]をいふやうになつた、年齢の加減か、独居のせいか、何とかいふ支那の禅師の話を思ひだしておかしかつたり、くやしかつたりしたことである。

 六月十九日 同前。

曇、時々照る、歩けば暑い、汗が出
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