されては勿体ないやうな気がする。
同宿の坊さん、籠屋のお内儀さん、週[#「週」に「マヽ」の注記]旋屋さん、女の浪速節語りさん、みんなとり/″\に人間味たつぷりだ。
十二月廿五日[#「十二月廿五日」に二重傍線] 曇、雨、徒歩三里、久留米、三池屋(二五・中)
昨夜は雪だつた、山の雪がきら/\光つて旅人を寂しがらせる、思ひだしたやうに霙が降る。
気はすゝまないけれど十一時から一時まで行乞、それから、泥濘の中を久留米へ。
今夜の宿も悪くない、火鉢を囲んで与太話に興じる、痴話喧嘩やら酔つぱらひやら、いやはや賑やかな事だ。
十二月廿六日[#「十二月廿六日」に二重傍線] 晴、徒歩六里、二日市、和多屋(二五・中)
気分も重く足も重い、ぼとり/\歩いて、こゝへ着いたのは夕暮だつた、今更のやうに身心の衰弱を感じる、仏罰人罰、誰を怨むでもない、自分の愚劣に泣け、泣け。
此宿もよい、宿には恵まれてゐるとでもいふのだらうか、一室一燈を一人で占めて、寝ても覚めても自由だ。
途中の行乞は辛かつた、時々憂欝になつた、こんなことでどうすると、自分で自分を叱るけれど、どうしようもない身心となつてしまつた。
禅関策進を読む、読むだけが、そして飲むだけがまだ残つてゐる。
毎日赤字が続いた、もう明日一日の生命だ、乞食して存らへるか、舌を噛んで地獄へ行くか。……
こゝは坊主枕なのがうれしい、茣座枕は呪はれてあれ! こんな一些事がどんなに孤独の旅人を動かすかは、とても第三者には解りつこない。
床をならべた遍路さんから、神戸の事、大阪の事、京都の事、名古屋の事、等、等を教へられる、いゝ人だつた、彼は私の『忘れられない人々』の一人となつた。
十二月廿七日[#「十二月廿七日」に二重傍線] 晴后雨、市街行乞、大宰府参拝、同前。
九時から三時まで行乞、赤字がさうさせたのだ、随つて行乞相のよくないのはやむをえない、職業的[#「職業的」に傍点]だから。……
大宰府天満宮の印象としては樟の老樹ぐらいだらう、さん/″\雨に濡れて参拝して帰宿した。
宿の娘さん、親類の娘さん、若い行商人さん、近所の若衆さんが集つて、歌かるたをやつてゐる、すつかりお正月気分だ、フレーフレー青春、下世話でいへば若い時は二度ない、出来るだけ若さをエンヂヨイしたまへ。
十二月廿八日[#「十二月廿八日」に二重傍線] 晴、汽車で四里、酒壺
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