ゲルトがないと坊主らしくなる。
同宿四人、みんな間[#「間」に「マヽ」の注記]師だ、間師はそれ/″\間師らしい哲学を持つてゐる、話してもなか/\おもしろい、間師同志の話は一層おもしろい(昨日今日当地方の春祭だから、それをあてこんで来たものらしい)。
痔がいたむ、酒をつゝしみませう。
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・ふるさとの夢から覚めてふるさとの雨
 入川汐みちて出てゆく船
 窓が夕映の山を持つた
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この宿のおかみさんはとても[#「とても」に傍点]醜婦だ、それだけ好意が持てた、愛嬌はないが綺麗好きだから嬉しい。
世間する[#「世間する」に傍点]、といふ言葉は意味ふかい、哲学する[#「哲学する」に傍点]といふ言葉のやうに。

 五月九日[#「五月九日」に二重傍線] 曇、歩いて三里、汽車で五里、樹明居(小郡)

文字通りの一文なし、といふ訳で、富田、戸田、富海行乞、駅前の土産物店で米を買うていたゞいて小郡までの汽車賃をこしらへて樹明居へ、因縁があつて逢へた、逢ふてうれしかつた、逢ふだけの人間だから。
街の家で飲んで話した、呂竹、冬坊、俊の三君にも逢つた、呂竹居に泊る、樹明君もいつしよに。
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街は祭の、世間師泣かせの雨がふる(福川)
霽れるより船いつぱいの帆を張つた
やつとお天気になり金魚、金魚
   □
晴れて鋭い故郷の山を見直す(防府)
育ててくれた野は山は若葉
車窓《マド》から、妹の家は若葉してゐる
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戸田ではS君に逢ひたくてたまらなかつた、君は没落して大連にゐるのに。
椿峠で二人連れのルンペンに逢つた、ルンペンらしいルンペンだつた。
今日の行乞相は九十点以上。
防府を過ぎる時はほんたうに感慨無量だつた。
樹明居は好きになつた、樹明君が好きになつたやうに。
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 柿若葉その家をたづねあてた(樹明居)
 逢へたゆふべの椿ちりをへてゐる
 地肌あらはなたそがれの道で
 こんやはここで寝る鉄瓶の鳴る(呂竹居)
 壁に影する藺の活けられて
・ふるさとの夜がふかいふるさとの夢
 すゞめがおぢいさんがもうおきた
・けさの風を入れる
    □
 赤いのは楓です(即興追加)
・水音のクローバーをしく
 身にせまり啼くは鴉
 また鴉がなく旅人われに
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 五月十日[#「五月十
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