ちにち風をあるいてきた
山ふところの水涸れて白い花
・風のトンネルぬけてすぐ乞ひはじめる
もう葉桜となつて濁れる水に
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同宿は土方君、失職してワタリをつけて放浪してゐる、何のかのと話しかける、名札を書いてあげる、彼も親不孝者、打つて飲んで買うて、自業自得の愚をくりかへしつゝある劣敗者の一人。
四月廿一日[#「四月廿一日」に二重傍線] 晴、申分なし、行程三里、入雲洞房、申分なし。
若松市行乞、行乞相と所得と並行した、同行の多いのには驚いた、自省自恥。
若松といふところは特殊なものを持つてゐる、港町といふよりも船着場といつた方がふさはしい、帆柱林立だ(和船が多いから)、何しろ船が多い、木造、鉄製、そして肉のそれも!
諺文の立札がある、それほど鮮人が多いのだらう、檣のうつくしい港として、長崎が灯火の港であることに匹敵する如く。
鮮人宛の立札があるのは、諏訪神社に外人向のお※[#「鬥<亀」、第3水準1−94−30]札(英語の)があると[#「ると」に「マヽ」の注記]好対照だ。
入雲洞君はなつかしい人だ、三年ぶりに逢うて熊本時代を話し、多少センチになる。……
金魚売の声、胡瓜、枇杷、そしてこゝでも金盞花がどこにも飾られてゐた。
酢章魚がおいしかつた、一句もないほどおいしかつた、湯あがりにまた一杯が(実は三杯が)またよかつた、ほんに酒飲みはいやしい。
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煙突みんな煙を吐く空に雲がない(八幡製鉄所)
ルンペンが見てゐる船が見えなくなつた(若松風景)
ぎつしりと帆柱に帆柱がうらゝか( 〃 )
入雲洞房二句
窓にちかく無花果の芽ぶいたところ
ひさしぶり話してをります無花果の芽
□
・もう死ぬる金魚でうつくしう浮く明り
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徹夜して句集草稿をまとめた、といふよりも、句集草稿をまとめてゐるうちに夜が明けたのだ、とにかくこれで一段落ついた、ほつと安心の溜息を洩らした、すぐ井師へ送つた、何だか子を産み落しや[#「しや」に「マヽ」の注記]うな気持、いや、私としては糞づまりを垂れ流したやうな心持である(きたない表現だけれど)。
四月廿二日[#「四月廿二日」に二重傍線] 曇、あちらこちら漫歩、八幡市、山中屋(三〇・中)
朝酒、等、等、入雲洞さんの厚情が身心にしみる、洞の海を渡つて、木村さんを訪
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