・餅二つ、けふのいのち
 ホウレン草の一把一銭ありがたや
 うらゝかにいたづらに唄うて乞うてゐる
                   (ルンペンに)
 生きたくてドツコイシヨ唄うてあるく
 巷に立つて運命を説いてる髯
   有田洋行会の象をうたふ
 象も痩せて鼻のばす身体《カラダ》うごかす
 なんぼ食べても食べ足りない象はうごく
 さぞ寒からう象にもフトンがない
 しきりに鼻をふる象に何かやれ
 鼻をさしのべる象には食べるもの
 愛嬌ふりまく象はメクラだつたのか
 君ヶ代吹いてオツトセイは何ともない
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 一月廿日[#「一月廿日」に二重傍線] うらゝか、今日の昨日を考へる、微苦笑する外はない。

すまなかつた、寥平さんにも、彼女にも、私自身にも、――しかし、脱線したのぢやない、それだけまた心苦しい。
苦味生さんから来信、あたゝかい、あたゝかすぎる、さつそく返信、そして寝る、悪夢はくるなよ。
自分が見え坊[#「見え坊」に傍点]だつたことに気付いて、また微苦笑する外なかつた、といふのは、私は先頃より頭部から顔面へかけて痒いものが出来て困つてゐる、それへテイリユウ膏を塗布するのだが、見えない部分よりも見える部分――自分からも他人からも――へ兎角たび/\塗布する。……
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 風の音にも何やかや
    □
・大空晴れわたり死骸の沈黙
 木枯やぼう/\としてゐる
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 一月廿一日[#「一月廿一日」に二重傍線] 晴れたり曇つたり、大寒入だといふのに温かいことだ。

今日は昼も夜も階下の夫婦が喧嘩しつゞけてゐる、こゝも人里、塵多し、全く塵が多過ぎます、勿論、私自身も塵だらけだよ。
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よろめくや寒[#(ン)]空ふけて
電燈のひかりにうかぶや葉ぼたん
ひとり住むことにもなれてあたゝかく
[#ここで字下げ終わり]

 一月廿二日[#「一月廿二日」に二重傍線] 雨、憂欝な平静。

稀也さんから突然、岡山へ転任するといふ通知があつたので、逓信局に元、馬の二君を訪ねて、送別句会の打合をする。
途上で少しばかり飲んだ、最初は酒、そして焼酎、最後にまた酒! 何といつても酒がうまい、酔心地がよい、焼酎はうまくない、うまくない焼酎を飲むのは経済的だからだ、酔ひたいからだ、同じ貨幣で、酒はうまいけれど焼酎は酔へ
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