にがいものはない、――酒ではさんざ苦労した、苦労しすぎた。……
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雪の葉ぼたんのしゞま
さら/\ふりつむ雪見ても
雪夜、隣室は聖書ものがたり
・ヤス[#「ヤス」に「安」の注記]かヤスかサム[#「サム」に「寒」の注記]かサムか雪雪(ふれ売一句)
吹雪吹きこむ窓の下で食べる
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一月十一日[#「一月十一日」に二重傍線] 曇つて晴れる、雪の後のなごやかさ。
いつものやうに、御飯を炊いて、そして汁鍋をかけておいて湯屋へ。――
あんまり寒いから一杯ひつかける、流行感冒にでもかゝつてはつまらないから、といふのはやつぱり嘘だ、酒好きは何のかのといつては飲む、まあ、飲める間に飲んでおくがよからう、飲みたくても飲めない時節があるし、飲めても飲めない時節がある。……
事実を曲げては無論いけない、といつて、事実に囚へられては、また、いけない(句作上に於て殊に然り)。
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あるだけのものを着てあたゝかうをる
・かあいらしい雪兎が解けます
・豆腐屋さんがかちあつた寒い四ツ角
雪の朝の郵便も来ない
雪の夕べをつゝましう生きてゐる
・逢うて戻ればぬかるみ
・十分に食べて雪ふる
雪の夜半の誘惑からのがれてきた
寒[#(ン)]空、二人連れは男と女
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一月十二日[#「一月十二日」に二重傍線] 曇、陰欝そのものといつたやうな天候だ。
外は雪、内は酒――憂欝を消すものは、いや、融かすものは何か、酒、入浴、談笑、散歩、等、等、私にあつては。
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雪の葉ぼたんの枯れるのか
曇り日の重いもの牽きなやむ
・凍[#(テ)]土をひた走るバスも空つぽ
・雪ふる何も五十銭
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夕方から熊本へ出かける(こゝも市内だけれど、感じでは出かけるのだ)、元寛さん馬酔木兄さんに逢ふ、別れて宵々さんを訪ねる、御夫婦で餅よ飯よと歓待して下さる(咄、酒がなかつた、などといふな)、私はこんなに誰もから歓待されていゝのだらうか。
一月十三日[#「一月十三日」に二重傍線] 曇、今日もまた雪でも降つて来さうな。
苦味生さんから、方向転換の手紙が来た、苦味生さんの気持は解る(苦味生さんに私の気持が解るやうに)、お互に、生きる上に於て、真面目であるならば、人間と人間とのまじはりをつゞ
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