流れる、独居自炊、いゝね。
寒い、寒い、忙しい、忙しい――我不関焉!
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枯草原のそここゝの男と女
葬式はじまるまでの勝負を争ふ
枯草の夕日となつてみんな帰つた
明日を約して枯草の中
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これらの句は二三日来の偽らない実景だ、実景に価値なし、実情に価値あり、プロでもブルでも。
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やつと見つけた寝床の夢も
・餅搗く声ばかり聞かされてゐる
・いつも尿する草の枯れてゐる
・重たいドアあけて誰もゐない
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十二月廿七日[#「十二月廿七日」に二重傍線] 晴、もつたいないほどの安息所だ、この部屋は。
ハガキ四十枚、封書六つ、それを書くだけで、昨日と今日とが過ぎてしまつた、それでよいのか、許していたゞきませう。
……やうやく、おかげで、自分自身の寝床をこしらへることができました、行乞はウソ、ルンペンはだめ、……などとも書いた。
前後植木畠、葉ぼたんがうつくしい、この部屋には私の外に誰だかゐるやうな気がする、ゐてもらひたいのではありませんかよ。
数日来、あんまり歩いたので(草鞋を穿いて歩くのには屈托しないが、下駄、殊に足駄穿きには降参降参)、足が腫れて、足袋のコハゼがはまらないやうになつた、しかし、それもぢきよくなるだらう。
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・師走のポストぶつ倒れゐた[#「ゐた」に「マヽ」の注記]
自分の家を行きすぎてゐたのか
タドンあたゝかく待つてゐてくれた
夜ふけてさみしい夫婦喧嘩だ
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附記、昨日Iさんを訪ねたが会へなかつた(先日も訪ねたが、さうだつた)、多分居留守をつかつてゐるらしい、Iさんは私と彼女との間を調停してくれた人、私がこんなになつたから腹を立てゝ愛想をつかして、面会謝絶と出たのかも知れない、子供は正直だから取次に出た子供の様子で、そんなやうに感じた、――とにもかくにも、それでは、Iさんはあまりに一本気だ、人間を知らない、――私はIさんのために、居留守が私の僻みであることを祈る、Iさんだつて俗物だ、俗物中の最も悪い俗物だ、プチブル意識の外には何物も持つてゐない存在物だから。
底本:「山頭火全集 第三巻」春陽堂書店
1986(昭和61)年5月25日第1刷発行
1989(平成元)年3月20日第4刷
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:さくらんぼ
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年3月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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